自由の大地 THE ROOTS OF HEAVEN
さすらいの旅路 DAVID COPPERFILED
作曲:マルコム・アーノルド
Composed by MALCOLM ARNOLD
指揮:ウィリアム・ストロンバーグ
Conducted by WILLIAM STRONBERG
演奏:モスクワ交響楽団
Performed by the Moscow Symphony Orchestra
(独Marco Polo / 8.225167)
これは過去の傑作フィルムスコアをジョン・モーガンがリコンストラクトし、ウィリアム・ストロンバーグ指揮のモスクワ交響楽団が新たに録音しているドイツのMarco Poloレーベルのシリーズの1枚で、イギリスの作曲家サー・マルコム・アーノルド(1921年生まれ)の80歳の誕生日を記念してリリースされたものである。これらのスコアが完全な形でリプレゼントされるのはこれが初めてであり、「自由の大地」にはアルフレッド・ニューマンが追加で作曲したトラックも2曲含まれている。いずれも非常に“映画音楽らしい”響きをもったスコアで、時代を感じさせない新鮮さがある。
「自由の大地」は、フランスの作家ロマン・ギャリーの原作小説をフォックスのプロデューサー、ダリル・F・ザナックと、「マルタの鷹」「黄金」「王になろうとした男」等の監督ジョン・ヒューストンが1958年に映画化したアメリカ映画で、出演はエロール・フリン(トップビリングだが脇役)、ジュリエット・グレコ(フランスの歌手で当時ザナックの愛人だった)、トレヴァー・ハワード(彼が主役)、オーソン・ウェルズ、エディ・アルバート、ハーバート・ロム、ポール・ルーカス、フリードリッヒ・レデバー、グレゴワール・アスラン、フランシス・デ・ウルフ他。ロマン・ギャリー自身が執筆した脚本にヒューストンの友人パトリック・レイ・ファーマーが“冒険活劇”的タッチを付加したが、このためにギャリーの原作の高貴さや哲学的な高尚さが完全に失われてしまったという。撮影は名手オズワルド・モリスが担当。絶滅しかかっているアフリカ象の密猟を阻止しようとする男モレル(ハワード)の闘いを描いたドラマで、当時としては先進的なテーマを扱った映画だった。ザナックはこの映画のロケを実際に中央アフリカで行ったが、極度の高温と現地の伝染病のためにスタッフ・キャストが撮影中にバタバタと倒れていったという。
マルコム・アーノルドは、監督のヒューストンからは特に音楽の内容についての指示は受けなかったが、プロデューサーのザナックからは映画のNYプレミア用に序曲を作曲するように依頼され、「これは壮大な映画なのだから、壮大なテーマを書いてほしい」と要請されたという。アーノルドの音楽付きで完成したプリントを見たザナックは、一部追加の音楽が必要と感じ、フォックスの音楽監督アルフレッド・ニューマンに急ぎで作曲を指示した。ニューマンはアーノルドの書いた主題をベースに追加音楽を4曲作曲し、わざわざスコアをアーノルドに送って承認を求めたという。アーノルドはニューマンの丁重な態度に感動し、ただちに承認の回答をした。
冒頭の序曲「Overture」では主要な主題が順に登場する。高らかなファンファーレから壮大で華麗なイントロに続き、パーカッシヴな“象のテーマ”、クラリネットによる少しおどけたテーマからロマンティックなヒロインのミンナ(グレコ)のテーマ、そして主人公モレルのストイックなタッチのテーマへと展開し、最後はフルオーケストラで力強く締めくくる。続く「Main Title」もまさに“ヴィンテージ・アーノルド”で、華麗なファンファーレから勇壮でスケールの大きい冒険活劇調のメインテーマが展開。「The Great Elephants」はパワフルでブラッシーな“象のテーマ”。「Minna and St.Denis」「Minna and Major Forsythe」「The Jungle Clearing」等では“ミンナのテーマ”が効果的にフィーチャーされている。「Morel's Retribution」「The Elephant Hunt」等は激しいアクションスコア。「The Sand Storm」は砂嵐のシーンの音楽だが、アーノルドの傑作「戦場にかける橋」の序曲に似たフレーズが登場する。「Return to Biondi (part 2)」「Minna's Goodbye」の2曲は上記の通りアルフレッド・ニューマンが作曲した音楽だが、いずれも映画のクライマックスのアンダースコアで、前者はモレルのテーマがボレロ風にだんだんと盛り上がっていく。後者は“ミンナのテーマ”がいかにもニューマンらしく繊細で美しいアレンジメントにより演奏される。最後の「Finale and End Titles」は勇壮で栄光に満ちたフィナーレ。
「さすらいの旅路」は、「(TV/未公開)アルプスの少女ハイジ」を製作したアメリカの製作会社オムニバス(フレデリック・ブロッガーと俳優のジェームズ・フランシスカスが経営者)が、チャールズ・ディケンズの原作を基に1969年に映像化したTV映画で、監督も「アルプスの少女ハイジ」と同じデルバート・マンが担当。様々な運命に翻弄される主人公のデヴィッドをロビン・フィリップスが演じ、ラルフ・リチャードソン、ローレンス・オリヴィエ、マイケル・レッドグレーヴ、リチャード・アッテンボロー、ウェンディ・ヒラー、イーディス・エヴァンス、シリル・キューザック、エムリン・ウィリアムス、ロン・ムーディ、ジェームズ・ドナルド、パメラ・フランクリン、スーザン・ハンプシャー、アンナ・マッセイ、シニード・キューザック、コリン・レッドグレーヴ、メグス・ジェニングス、ジェームズ・ヘイター、アラステア・マッケンジー、イゾベル・ブラック他といったTV映画としては異例に豪華な英国演劇界のベテラン達が脇を固めている。脚本はジャック・プルマン、撮影はマイク・ホッジスが担当。このディケンズの原作は1935年にもジョージ・キューカー監督/フレディ・バーソロミュー主演により映画化されている。
このTV映画の音楽は、「アルプスの少女ハイジ」を担当したジョン・ウィリアムスが当初アサインされていたが、彼が別の作品の仕事で担当できなくなったため、マルコム・アーノルドに作曲の依頼がまわってきた。アーノルド自身、チャールズ・ディケンズをイギリスでも最高の作家の一人と考えており、特にこの小説は彼のお気に入りだったので、彼は喜んでこの仕事を引き受けた。このスコアは彼が作曲した最後の映画音楽であり、まさに入魂の力作となっている。
「Main Title」は短いファンファーレに続いて、物悲しくドラマティックな“デヴィッドのテーマ”が演奏されるが、この上なく感動的な音楽である。この主題がスコア全体で何度も繰り返し登場する(「Return to Yarmouth」「Memories of Dora and Steerforth」「Agnes Leaves David」等)。「Agnes' Arrival - Mother's Funeral」では繊細なタッチのアグネス(ハンプシャー)のテーマが登場する。「Mr.Micawber」は主要な登場人物の一人、ミカウバー氏(リチャードソン)を描いたクラリネットソロによるコミカルで軽快なタッチの曲だが、映画では何故か完全な形では使用されなかった。「Love for Dora」はデヴィッドと彼の薄幸な妻ドーラ(フランクリン)のラブテーマ。「Emigration to Australia」後半の華麗な盛り上がりもいかにもアーノルドらしい。ラストの「David's Resolution and Finale」は“デヴィッドのテーマ”を中心としてドラマティックで感動的なフィナーレとなる。それは映画のフィナーレであるとともにマルコム・アーノルドの映画音楽作曲家としての栄光に満ちたキャリアの幕切れでもある。
尚、イギリスのクラシック音楽レーベルChandosから、マルコム・アーノルドの映画音楽を集めた以下の2枚の新録音コンピレーションがリリースされている。2001年にリリースされた第2集には、「自由の大地」と「さすらいの旅路」の一部も収録されている。
「MALCOLM ARNOLD: FILM MUSIC」
Richard Hickox conducting the London Symphony Orchestra
(英Chandos / CHAN 9100) 1992
The Bridge on the River Kwai 戦場にかける橋
Whistle Down the Wind 汚れなき瞳
The Sound Barrier 超音ジェット機
Hobson's Choice ホブソンの婿選び
The Inn of the Sixth Happiness 六番目の幸福
「THE FILM MUSIC OF SIR MALCOLM
ARNOLD VOL.2」
Rumon Gamba conducting the BBC Philharmonic Orchestra
(英Chandos / CHAN 9851) 2001
Trapeze 空中ぶらんこ
The Roots of Heaven 自由の大地
Report on Steel
No Love for Johnnie
David Copperfield さすらいの旅路
You Know What Sailors Are
Stolen Face (未公開)盗まれた顔
The Belles of St.Trinian's (未公開)じゃじゃ馬学校
The Holly and the Ivy
The Captain's Paradise 地中海夫人
(2001年9月)
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