(未公開)SISTER MARY EXPLAINS IT ALL

作曲:フィリップ・サルド
Composed by PHILIPPE SARDE

指揮:デヴィッド・スネル
Conducted by DAVID SNELL

(米Varese Sarabande / 302 066 268 2)

cover
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2001年製作のアメリカのTV映画。ウッディ・アレン監督の「スリーパー」(1973)「アニー・ホール」(1977)「マンハッタン」(1979)「マンハッタン殺人ミステリー」(1993)やマーク・ライデル監督の「フォー・ザ・ボーイズ」(1991)の脚本家として知られるマーシャル・ブリックマンが監督を担当。出演はダイアン・キートン、ジョン・デイヴィ、ローラ・サン・ジャコモ、ブライアン・ベンベン、ウォーレス・ランガム、マックス・モロー、マーティン・ムル、ヴィクトリア・テナント、ジェニファー・ティリー、コリーン・ウィリアムス他。尼僧のシスター・メアリー(キートン)による年に一度の恒例の説教に参加した様々な人々を描くクリストファー・デュラングの1幕ものの戯曲「Sister Mary Ignatius Explains It All For You」(1981)の映画化で、デュラング自身が脚本を執筆。撮影はアンソニー・B・リッチモンド。

音楽は、マーシャル・ブリックマンと「(未公開)Lovesick」(1983)「(未公開)マンハッタン・プロジェクト」(1986)でも組んでいるフランスのベテラン、フィリップ・サルド。ここでは全9曲、約30分程のサルドのスコアが収録されているが、冒頭の「Praise My Soul (Main Titles)」「Preparations」等、オルガンとコーラスによる讃美歌的な曲が主体になっており、「Memory」「Innocence」「Redemption / End Titles」等も素朴でジェントルな音楽。全体に非常に抑制されたスコアで、いつものサルドの華麗なタッチよりも、むしろドルリューの音楽に印象が近い。

更にこのCDには、ブリックマン=サルドの過去のコラボレーション作品「Lovesick」より9曲、「マンハッタン・プロジェクト」より6曲が収録されている(後者は以前にVareseレーベルよりサントラLPがリリースされていた)。「Lovesick」(ダドリー・ムーア、エリザベス・マクガヴァーン、アレック・ギネス、ジョン・ヒューストン等が出演したロマンティック・コメディ)は、よりサルドらしい明るく洒落たタッチのゴージャズなスコアで、特に「Main Theme」「Obsession in 3/4 Time」「Saul's Nightmare」「Lovesick」等が実に楽しい。「マンハッタン・プロジェクト」(ジョン・リスゴー、クリストファー・コレット主演のサスペンス)の方は、よりハリウッド的にスケールの大きいスコア(演奏はパリ管弦楽団)。

このCDのライナーノートには、監督のブリックマンがサルドとのコラボレーションに係わる経緯を書いているが、それによると、サルドの音楽の大ファンだったブリックマンは、「テス」のサントラを聴きながら「Lovesick」の脚本を執筆しており、このスコアに惚れ込んでしまった彼はサルドのパリの住所に脚本を送って作曲の依頼をしたという。脚本を読んで気に入ったサルドはパリからNYのブリックマンに電話してきて「NYで会おう」と言ってきた。NYのカフェでサルドと会う約束をしたブリックマンは、眼鏡をかけ口髭をはやし、完璧にスーツを着こなした中年の欧州紳士がやってくると予想していた(その時点でサルドは150本以上の作品を手がけていた)が、彼の前に現れたのは眼鏡も口髭もない長髪にレザージャケットの30そこそこの男で、ブリックマンは「きっとサルドは自分でやる気がなくなったので弟子をよこしたんだ」と思ったらしい。ところが、彼の前に座って話をはじめた男の声は電話で聞いたサルド本人のもので、ブリックマンは「この若者が一体いつ150本もの映画音楽を作曲したんだろう」と非常に驚いたという。

ところで、「マンハッタン・プロジェクト」の方は、実はサルドが1982年に担当したフランス製の犯罪映画「(未公開)最後の標的(Le choc)」という映画(監督:ロバン・ダヴィ/出演:アラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーヴ)のスコアの主題をそのまま流用している。この「最後の標的」のスコアは当時フランスからサントラLPがリリースされていたので、サルドのファンであれば、彼が後のハリウッド映画で自作を使いまわしにしていることにすぐに気付いてしまう。ニーノ・ロータの「ゴッドファーザー 愛のテーマ」の例(詳細はこちら)のように、欧州の作曲家は時々こういうことをやるが、「アメリカで公開される可能性のない無名なヨーロッパ映画の音楽を使いまわしても誰も気付くまい」と考えるのだろうか・・。
(2001年9月)

Philippe Sarde

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