黒澤明映画音楽完全盤 上巻
FILM MUSIC OF AKIRA KUROSAWA THE COMPLETE EDITION

作曲:早坂文雄、佐藤 勝
Composed by FUMIO HAYASAKA, MASARU SATOH

(Toho Music / AK-0001〜0005、AKS-1)全6枚組


黒澤明監督作品の映画音楽を完全な形で収録したシリーズの第一弾。以下の内容のCD6枚組(5枚+特典CD1枚)ボックスセットになっているが、各CDは個別に分売もされている(特典CDを除く)。英語に“念入りな”という意味の“meticulous”という単語があるが、音楽、ライナーノーツ、インタビュー、ジャケットデザイン、レーベルデザイン等まさに隅々にまで徹底したmeticulousな作りになっていて、製作者(東宝ミュージック/岩瀬氏、早川氏)のこのプロジェクトに対するこだわりがひしひしと伝わって来る全集となっている。

●AK-0001
七人の侍 SEVEN SAMURAI (1954)
作曲:早坂文雄(39曲)

●AK-0002
生きる IKIRU (1952)
作曲:早坂文雄(19曲+ボーナストラック3)
生きものの記録 RECORD OF LIVING BEING (1955)
作曲:早坂文雄(5曲+ボーナストラック4)
どん底 THE LOWER DEPTH (1957)
作曲・指揮:佐藤 勝(4曲)

●AK-0003
蜘蛛巣城 THE THRONE OF BLOOD (1957)
作曲・指揮:佐藤 勝(43曲+ボーナストラック2)

●AK-0004
隠し砦の三悪人 THE HIDDEN FORTRESS (1958)
作曲・指揮:佐藤 勝(55曲+ボーナストラック10)

●AK-0005
悪い奴ほどよく眠る THE BAD SLEEP WELL (1960)
作曲・指揮:佐藤 勝(41曲+ボーナストラック11)

●AKS-1(特典CD)
黒沢明の世界 <リアルサウンドトラック> 七人の侍
(1971年に東宝レコードより発売された「黒沢明の世界 第2集 七人の侍」をCDとして復刻したもの)

 

黒澤映画の音楽全集は過去にもボックスセットがリリースされており、各々の音楽のハイライトはそこでも聴くことができたが、今回完全な形で聴き直してみると、黒澤監督のシリアスなドラマティック・アンダースコアへのこだわりと、それを真正面から受け止めて見事なスコアを提供した早坂、佐藤両氏の偉業に改めて感心させられる。その“シリアスな映画音楽へのこだわり”は、「七人の侍」のCDのライナーに転載されている「早坂君を僕が信用するのは、あれほど映画音楽に打ち込んでいる人はあるまいと思うからだ。たいていの人は映画音楽はアルバイトなのだが、早坂氏は映画音楽に生きようとしている」という黒澤監督の言葉に集約されていると思う。

このボックスセットでも、特に音楽の量が多い活劇の「七人の侍」と「隠し砦の三悪人」のコンプリートスコアは正に圧巻である。

「七人の侍」は黒澤監督の活劇とヒューマニズムの集大成的な傑作で、この1954年製作の3時間20分に及ぶ白黒映画には、今見ても全編を通じてピンと張り詰めた緊張感がある。視覚的には、特に前半の勘兵衛(志村喬)が納屋に立てこもった盗賊を打ち倒すシーンのハイスピード撮影と、後半の野武士との合戦のシーンの位置関係の明確さが見事だったと思う。この映画は「望遠」と「広角」のたった2本のレンズで全てが撮影されたと聞いたことがあるが、到底信じられない迫力である。早坂文雄のスコアも、有名な「侍のテーマ」をはじめとして、「菊千代(三船敏郎)のテーマ」「勝四郎(木村功)と志乃のテーマ」「農民のテーマ」「野武士のテーマ」といったライトモチーフの手法が用いられており、的確にドラマの展開をサポートしている。日本映画音楽史に残る傑作スコアの一つだろう。

「隠し砦の三悪人」は、ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」の原型となったことで知られる痛快アクション時代劇。黒澤を含む4人の脚本家が敵と味方の2組みに分かれ、黒澤が考えた「絶対に突破できない設定」を他の3人(菊島隆三、橋本忍、小国英雄)が何とか突破しようと考える、というやり方でストーリーを組み立てていったという。作曲の佐藤勝は、黒澤監督よりただひとこと「大活劇みたいな音楽を書いてくれ」とだけ言われてそれ以外の注文はなかったというが、ここでもライトモチーフの手法がとられ、ミリタリーマーチ調の豪快な六郎太(三船敏郎)のテーマ、エキゾチックな雪姫(上原美佐)のテーマ、そして二人の百姓コンビのテーマを主体に全体が展開する。活劇音楽の魅力に満ちた痛快なドラマティックスコアが素晴らしい。

尚、このCDは以下の東宝ミュージックのウェブサイトでのみ販売されている:
http://www.toho.co.jp/music/

(2001年11月)

Fumio Hayasaka

Masaru Satoh

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