さらば愛しき女よ   FAREWELL, MY LOVELY

作曲・指揮:デヴィッド・シャイア
Composed and Conducted by DAVID SHIRE

(米Film Score Monthly / Vol.4 No.20)

cover
このCD(輸入盤)を購入する

レイモンド・チャンドラー原作の有名なハードボイルド小説を「男の出発(たびだち)」(1972)「ブルージーンズ・ジャーニー」(1974)「愛の7日間」(1983)等のディック・リチャーズ監督が1975年に映画化した作品。出演はロバート・ミッチャム、シャーロット・ランプリング、ジョン・アイアランド、シルヴィア・マイルズ、ジャック・オハローラン、アンソニー・ザーブ、ハリー・ディーン・スタントン、ジム・トンプソン、ジョン・オリーリィ、ケイト・マータフ、シルヴェスター・スタローン、ジョー・スピネリ他。脚本はデヴィッド・Z・グッドマン、撮影はジョン・A・アロンゾが担当。製作総指揮はエリオット・カストナーだが、プロデュースにジェリー・ブラッカイマーが参加している。

刑務所から出獄したばかりのムース・マロイという男(オハローラン)から、彼がかつて愛した女ヴェルマを探してほしいと依頼された私立探偵のフィリップ・マーロウは、女の行方を探す内に殺人事件に巻き込まれて行く・・。マーロウ役はこれ以前にも「三つ数えろ」(1946)のハンフリー・ボガートや、ロバート・モントゴメリー、ディック・パウエル、「かわいい女」(1969)のジェームズ・ガーナー、「ロング・グッドバイ」(1973)のエリオット・グールド等が演じているが、ここでは当時58歳のロバート・ミッチャムが実にいい味を出しており、彼は1978年に同じエリオット・カストナー製作の「大いなる眠り」(マイケル・ウィナー監督)でも再度この役を演じている。ミッチャム以外にも、“ファム・ファタール(femme fatale)”を演じるシャーロット・ランプリングや、ナルティ警部役のジョン・アイアランド、落ちぶれたアル中の歌手役のシルヴィア・マイルズ(1975年度アカデミー賞の助演女優賞にノミネート)等絶妙のキャスティングで、ストーリー自体の弱さを役者の魅力でカバーしていると言える。この作品の前年に製作された傑作「チャイナタウン」(ロマン・ポランスキー監督)の撮影も担当したジョン・A・アロンゾによる映像も素晴らしい。因みに、原作者のレイモンド・チャンドラーは映画の脚本もいくつか手がけており、中でもビリー・ワイルダー監督の「深夜の告白」(1944)とアルフレッド・ヒッチコック監督の「見知らぬ乗客」(1951)は有名。

音楽はデヴィッド・シャイアが作曲しており、これは彼のベストスコアの1つだろう。特に、ピアノとストリングスによる静かなイントロからディック・ナッシュによるミュート・トロンボーンとロニー・ラングによるアルト・サックスのソロによる気だるい主題へと続く「Main Title (Marlowe's Theme)」が素晴らしい。シャイアによると、スコアの録音の際に立ち会っていたプロデューサーの一人から「スコア全体は最高だがメインテーマがジェームズ・ボンドみたいだ」と言われたことで、どうしてもそこだけやり直したいと考え、ついにメインテーマを自費で作曲し直して再録音したという。それだけに彼にとっては思い入れの強い曲なのだろう。この主題は「Velma / Chinese Pool Hall / To the Mansion」「Marlowe's Trip」「Convalescence Montage」「End Title」等で様々なアレンジメントにより登場する。ランプリング演じるヒロインのテーマ「Mrs.Grayle's Theme」はセンシュアルなタッチで、ストーリーのクライマックスでも演奏される。「To Mrs.Florian's / Car-nal Knowledge / I Am Curious」「Amthor's Place」といったジャズ・ベースのサスペンス音楽や、「Take Me to Your Lido」でのオーケストラによるオーソドックスなアクション音楽も良い。

ハードボイルドなタッチの映画音楽としては、ジェリー・ゴールドスミス「チャイナタウン」バーナード・ハーマン「タクシー・ドライバー」ジョン・バリー「白いドレスの女」等と並ぶ傑作。このFilm Score MonthlyのCDは、当時ユナイトから出ていたサントラLPに未発表の1曲「To Mrs.Florian's / Car-nal Knowledge / I Am Curious」を加えて初CD化したもので、同じデヴィッド・シャイア作曲の「モンキー・シャイン」(ジョージ・A・ロメロ監督)のスコアとのカップリングになっている。
(2002年2月)

David Shire

Soundtrack Reviewに戻る


Copyright (C) 2002 - 2005  Hitoshi Sakagami.  All Rights Reserved.