(未公開)ブラジルから来た少年 THE BOYS FROM BRAZIL

作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH

演奏:ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the National Philharmonic Orchestra

(米Intrada / Intrada Special Collection Volume 75)

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1978年製作のイギリス=アメリカ合作映画。監督は「猿の惑星」(1968)「パットン大戦車軍団」(1970)「ニコライとアレクサンドラ」(1971)「パピヨン」(1973)「海流のなかの島々」(1977)等のフランクリン・J・シャフナー。出演はグレゴリー・ペック、ローレンス・オリヴィエ、ジェームズ・メイソン、リリー・パルマー、ユタ・ヘイゲン、スティーヴ・グッテンバーグ、デンホルム・エリオット、ローズマリー・ハリス、ジョン・デナー、ジョン・ルービンスタイン、アン・ミーラ、ジェレミー・ブラック、ブルーノ・ガンツ、ウォルター・ゴテル、デヴィッド・ハースト、ヴォルフガング・プライス、マイケル・ゴーフ、ヨアヒム・ハンセン、スカイ・デュモン、リンダ・ヘイドン、ギュンター・マイスナー、プルネラ・スケイルズ、ウォルフ・カーラー他。「赤い崖」(1956)「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)「デストラップ・死の罠」(1982)「死の接吻」(1990)「硝子の塔」(1993)「ステップフォード・ワイフ」(2004)等のアイラ・レヴィンの原作を基にヘイウッド・グールドが脚本を執筆。撮影は「賭博師ボブ」(1955)「サムライ」(1967)「仁義」(1970)といったジャン=ピエール・メルヴィル監督作品や「死刑台のエレベーター」(1957)「太陽がいっぱい」(1960)「シシリアン」(1969)等で知られるフランスの名手アンリ・ドカエ

1970年代後半の南米パラグアイ。ユダヤ人擁護団体の若者バリー・コーラー(グッテンバーグ)は、第二次大戦中にアウシュビッツ収容所の主任医師だったヨーゼフ・メンゲレ博士(ペック)がナチスの残党を集め、アメリカとヨーロッパにいる94人の65歳の男性を殺害せよとの指示を出すのを盗聴する。その情報を得たベテランのナチ・ハンター、エズラ・リーバーマン(オリヴィエ)は、殺害された人物たちを調査し、やがてナチス再興を企むメンゲレの驚くべき計画を突き止める……。日本では劇場公開されず、TV放映、ビデオ/DVD発売された作品だが、アイラ・レヴィンの奇想天外なプロット、シャフナー監督のソリッドなサスペンス演出、グレゴリー・ペックの狂気に満ちた悪役ぶり等が見事なサスペンス・スリラーの傑作。ローレンス・オリヴィエはここではユダヤ人のナチ・ハンター(架空の人物)を演じているが、ジョン・シュレシンジャー監督の「マラソン マン」(1976)では、ナチスの残党の歯医者を演じていた。主要なキャスト・メンバーのペック、オリヴィエ、ジェームズ・メイソンは、各々「白い恐怖」「レベッカ」「北北西に進路を取れ」でヒッチコック監督作品に出演している名優。昔の戦争映画でドイツ軍人を演じていたゴテル、プライス、マイスナー等がナチスの残党を演じているのもそれらしい。尚、ヨーゼフ・メンゲレ博士は実在し、この作品の製作中もブラジルのサン・パウロで生きていたが、作品公開後の1979年に死去している。この作品は、1978年度アカデミー賞の主演男優賞(オリヴィエ)、作曲賞、編集賞にノミネートされている。「ラッシュアワー」シリーズや「X-MEN:ファイナル ディシジョン」のブレット・ラトナー監督がリメイクするとの話もあった。

音楽は、フランクリン・J・シャフナー監督と「七月の女」(1963)「猿の惑星」(1968)「パットン大戦車軍団」(1970)「パピヨン」(1973)「海流のなかの島々」(1977)「(未公開)ライオンハート(Lionheart)」(1987)でも組んでいるジェリー・ゴールドスミスで、この2人が手がけた全7作品は、映画とスコアのクオリティの高さから、ヒッチコック=ハーマン、トリュフォー=ドルリュー、スピルバーグ=ウィリアムス等と並ぶ「監督=作曲家」のベスト・コラボレーションの1つだろう。ゴールドスミスは1968年の「猿の惑星」、1970年の「パットン大戦車軍団」、1973年の「パピヨン」、1978年の「(未公開)ブラジルから来た少年」と、シャフナー監督作品で4度オスカーにノミネートされており、彼自身、どのスコアも自分の作曲家としての成長におけるターニングポイントとなったと述べている。私は幸運にもUCLAで開催されたシャフナー監督とゴールドスミス(いずれも故人)の公開講座を聴講する機会があったが、その際の2人の会話からも長年にわたる強い信頼関係が感じられた。この「(未公開)ブラジルから来た少年」で、19世紀のオーストリアとドイツの音楽をレファレンスにするというのもシャフナーのアイデアで、シュトラウス風のウインナ・ワルツでリーバーマンを、ワーグナー風のダークで重厚な音楽でメンゲレを描写している。

この米IntradaレーベルによるCDは2枚組となっており、1枚目にはコンプリート・スコアを収録。「Main Title」は、明るく躍動的なウインナ・ワルツ風の主題。この手のサスペンス映画のメインタイトルとしてはかなり意表を突かれる曲で、シャフナーの提案がなければゴールドスミスはもっとストレートなサスペンス調の曲を作曲していただろう。「The Killers Arrive」は、コーラーがパラグアイに集まってくるナチの残党たちを追跡するシーンのミリタリスティックでダークなサスペンス音楽。チューバとバス・トロンボーンによる重厚なナチスの主題が登場。場面がウィーンに変わるとメインのワルツが流れる。「What Does He Want」は、パラグアイの邸宅に集まったナチの残党たちにメンゲレが指示を出すシーンの抑制されたサスペンス音楽。「Find It; Don't Believe Me」は、盗聴がバレたコーラーがナチス達に追跡されるシーンのハイテンションなサスペンス・アクション音楽で、まさに職人芸的上手さ。「Kill Him」は、メンゲレが部下にコーラーに手を貸した現地の少年を殺すように命令するシーンのダークなタッチの音楽だが、映画では未使用。「Reuters News」は、ウィーンでリーバーマンがロイター通信社の記者ベニヨン(エリオット)に出会うシーンのメインのワルツだが、映画では未使用。「Broken Bottles」は、ドイツでターゲットの1人であるドーリングがナチの暗殺者ファーンバッハ(マイスナー)に殺されるシーンのダイナミックなサスペンス・アクション音楽。「We're Home Again [Film Mix]」は、ロンドンでナチの暗殺者ヘッセン(デュモン)がターゲットのハリントン(ゴーフ)を殺すシーンのバックに流れるソース音楽のリリカルな挿入歌で、ゴールドスミス作曲の「パピヨン」「カサンドラ・クロス」「ランボー」等の主題歌にも歌詞を提供しているハル・シェイパーが作詞し、エレイン・ペイジが歌っている。「S29」は、ダークなナチスの主題だが、映画ではどのシーン 用に作曲されたか不明。「Without Hope / Frau Doring」は、リーバーマンが殺されたドーリングの妻(ハリス)に会いに行くシーンの牧歌的でジェントルな曲。「Do Yours」は、メンゲレがサイベルト大佐(メイソン)に抗議するシーンの重厚なサスペンス音楽だが、映画では未使用。「The Dam」は、ウィーンでリーバーマンと妹のエスター(パルマー)がコーラーの同僚ベネット(ルービンスタイン)に会うシーンのワルツの主題から、スウェーデンのダム上でナチの暗殺者ムント(ゴテル)が旧友の 元親衛隊将校(プライス)に出会うシーンのサスペンス調の曲へ展開。「Over The Top; Frieda Maloney」は、ムントが旧友をダムの上から投げ落とすシーンの激しいフレーズから、リーバーマンがデュッセルドルフの刑務所に服役中の元収容所看守フリーダ・マローニー(ヘイゲン)を訪問するシーンの抑制されたサスペンス音楽へ。「December 11th」は、フリーダの犬の誕生日から、リーバーマンとエスターがメンゲレの計画を推理していくシーンの、ワルツの主題を織り込んだダークなサスペンス音楽。「The Hospital [Revised]」は、メンゲレが南米にあるかつての病院を訪れるシーンのダークなサスペンス音楽。「Jungle Holocaust」は、サイベルトがメンゲレの計画を中止し、オフィスを焼き払うシーンの重厚でドラマティックな曲。「Old Photos」は、メンゲレが単身アメリカにやって来て、ターゲットの1人であるホィーロック(デナー)を暗殺するシーンの、ややおどけたタッチのサスペンス音楽。「You!」は、ホィーロック宅で対峙したメンゲレとリーバーマンが格闘になるシーンのダイナミックでヴァイオレントなアクション音楽だが、映画では未使用。「The Right One」は、メンゲレがホィーロックの飼っていた巨大なドーベルマン犬に襲われるシーンの激しいアクション音楽。「Print!; The Dark Room; End Title」は、ビジーなアクション音楽(未使用)、エンディングの抑制されたサスペンス音楽、そしてメインのワルツの主題によるエンドタイトルへと続く。

2枚目のCDには、1978年に米A&MレーベルがリリースしたサントラLP(後にカナダのMasters Film Musicレーベルが同じ内容でCD化)に収録されていたゴールドスミス自身の編集による3楽章(「Suite from "The Boys From Brazil"」「Frau Doring」「The Dogs & Finale」)の組曲と、アルバム版の挿入歌「We're Home Again [Album Mix]」をリミックス/リマスターにより再現したものが収録されており、音質が改善されている。スコアのハイライトを編集したこの組曲は、ゴールドスミスのお気に入りだったという。更にゴールドスミスの指揮によるワーグナー、シュトラウスのクラシック音楽等のボーナス・トラックも収録。5000枚限定プレス。

因みにフランクリン・J・シャフナー監督作品を手がけたゴールドスミス以外の作曲家には、「大将軍」(1965)ジェローム・モロス「ニコライとアレクサンドラ」(1971)リチャード・ロドニー・ベネット「スフィンクス」(1980)マイケル・J・ルイス等の例があるが、これらはいずれも優れたスコアだった。

(2008年10月)

= 2018/5/5追記 =

2018/10/2にHappinetよりテレビ放映時の日本語吹替音声を追加した「ブラジルから来た少年 製作40周年特別版」Blu-rayが発売。

日本語吹替キャストは以下の通り:
グレゴリー・ペック(城達也)
ローレンス・オリヴィエ(西村晃)
ジェームズ・メイソン(宮内幸平)
リリー・パルマー(島美弥子)
ユタ・ヘイゲン(寺島信子)
スティーヴ・グッテンバーグ(塩谷翼)
ジェレミー・ブラック(菊池英博)
ブルーノ・ガンツ(岡部政明)
ウォルター・ゴテル(加藤精三)
ヴォルフガング・プライス(村松康雄)
マイケル・ゴーフ(阪脩)
リンダ・ヘイドン(榊原良子)
ゲオルグ・マリシュカ(藤本譲)、他

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