テレフォン TELEFON
作曲・指揮:ラロ・シフリン
Composed and Conducted by LALO SCHIFRIN
(米Film Score Monthly / FSMCD Vol.14 No.4)
1977年製作のアメリカ映画(日本公開は1978年4月)。監督は「殺人者たち」(1964)「刑事マディガン」(1967)「マンハッタン無宿」(1968)「ダーティハリー」(1971)「白い肌の異常な夜」(1971)「突破口!」(1973)「ラスト・シューティスト」(1976)「アルカトラズからの脱出」(1979)等のドン・シーゲル。出演はチャールズ・ブロンソン、リー・レミック、ドナルド・プレザンス、タイン・デイリー、アラン・バデル、パトリック・マギー、シェリー・ノース、フランク・マース、ヘレン・ペイジ・キャンプ、ロイ・ジェンソン、ジャクリーン・スコット、エド・ベイキー、ジョン・ミッチャム、イッギー・ウォルフィングトン、ハンク・ブラント、アレックス・シャープ他。「合衆国最後の日」(1977)「ダイ・ハード2」(1990)等のウォルター・ウェイジャーの原作を基に、「破壊!」(1973)「カプリコン・1」(1977)「アウトランド」(1981)「密殺集団」(1983)「プレシディオの男たち」(1988)「エンド・オブ・デイズ」(1999)等の監督ピーター・ハイアムズと「いのちの紐」(1965)「夜の大捜査線」(1967)「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)「タワーリング・インフェルノ」(1974)「ダーティハリー3」(1976)等のスターリング・シリファントが脚本を執筆。撮影はマイケル・C・バトラー、製作はジェームズ・B・ハリス。あるキーワードによって覚醒し、破壊活動を実行するスリーパー・スパイたちと、彼らを阻止するべくアメリカに送り込まれたKGBのスパイの活躍を描くサスペンス映画で、犯罪アクション映画の名手ドン・シーゲル監督による傑作(当初は脚本を担当したピーター・ハイアムズが監督するはずだったが、スタジオ側がハイアムズの脚本に不満だったため、シーゲルとシリファントが引き継いだ)。
アメリカと旧ソ連が冷戦状態だった時代、KGBは薬物催眠を施した51人のエージェントをアメリカ人に成りすまさせて米国各地に潜入させていた。彼らは、ウィリアム・フロスト作の詩(“森は美しく、深く、暗い……”)の一節と自分の本名の組み合わせを聞くと、予め与えられた任務を思い出して遂行するようにプログラムされていた。その後米ソ間の緊張関係は緩和し、その作戦自体がキャンセルされたが、極論派のスターリン主義者ニコライ・ダルチムスキー(プレザンス)が国際紛争の火種を起こそうとアメリカに渡り、今では平和に暮らしているスリーパー・スパイたちを覚醒させはじめる。KGBはダルチムスキー抹殺のためにグレゴーリ・ボルゾフ少佐(ブロンソン)をアメリカに送り込み、CIAに潜入中のKGBのダブル・スパイであるバーバラ(レミック)が彼に協力することになる……。電話1本で破壊活動を始める“人間爆弾”的な設定が秀逸。クライマックスのパブでのシーンの緊張感は見事。日本でのテレビ放映時の日本語吹替キャストは、チャールズ・ブロンソン(大塚周夫)、リー・レミック(武藤礼子)、ドナルド・プレザンス(島 宇志夫)、タイン・デイリー(朝井良江)、アラン・バデル(宮川洋一)、パトリック・マギー(大木民夫)、フランク・マース(家弓家正)、ハンク・ブラント(筈見 純)、他だった。ブロンソンの大塚氏はフィックスなので言うまでもないが、特にレミックの武藤さんとプレザンスの島氏は本人が日本語を話しているとしか思えないはまり方。
音楽は、ドン・シーゲル監督と「マンハッタン無宿」(1968)「ダーティハリー」(1971)「白い肌の異常な夜」(1971)「突破口!」(1973)でも組んでいるラロ・シフリンで、これは彼のオーケストラル・スコア中でも最も緊張感のあるサスペンスアクション音楽のひとつ。「Main
Title」は、早朝のモスクワでKGB長官ストレルスキー将軍(マギー)と副官マルチェンコ大佐(バデル)の指揮する兵士たちがダルチムスキーを逮捕しようとアパートに踏み込むシーンにメイン・クレジットが重なる冒頭の音楽で、シンバロンとピアノをフィーチャーした緊張感あるイントロから、オーケストラによるダイナミックでサスペンスフルなメインタイトルへと展開。「If
That Is So」は、シンバロンによるダークで不吉なダルチムスキーの主題。「Remember Nikulin」は、自動車修理工場で働くハリー・バスコム(ミッチャム)がダルチムスキーからの電話で覚醒し、米軍基地に爆弾を積んだトラックで突っ込むシーンのサスペンス音楽。「Dalchimsky
/ Remember Sobolev / Winter in Moscow」は、ダルチムスキーから電話を受けた民間ヘリのパイロット、カール・ハスラー(ベイキー)が、妻(シーゲル作品の常連女優ジャクリーン・スコット)の言葉に反応せず、ヘリで米軍基地を攻撃しようとするシーンのサスペンス音楽から、後半は少年たちにホッケーをコーチしているボルゾフ少佐のシーンのロシア風の主題へ。「KGB
Headquarters」は、ボルゾフがストレルスキーとマルチェンコから指令を受けるシーンの抑制されたサスペンス音楽。「Memorizing
Montage / Father Diller」は、ボルゾフが手帳に書かれたスリーパー・スパイたちの情報を記憶していくシーンと、ダルチムスキーがディラー神父(ウォルフィングトン)に指令を出すシーンの音楽。「The
Outer Leaf / Plotting in the Dark」も、ダークなタッチの抑制されたサスペンス音楽。「I Killed for
You」は、何も知らされていないバーバラがボルゾフに指令の内容を問い詰めるシーンの音楽。「Remember Guriyeva /
Detonating Device」は、ダルチムスキーから電話を受けた主婦のマリー・ウィルス(シーゲル作品の常連女優シェリー・ノース)がナイトガウンのまま車で出かけていき、ロケット試射場を爆破するシーンの7分以上におよぶハイテンションなサスペンス音楽。「Phone
Booth / A Question of Credibility」は、バーバラが公衆電話でCIAのサンドバーグ(マース)から指令を受けるシーンの音楽。「Callender」「After
the Explosion」は、既に電話を受けて覚醒しているマーティン・カレンダー(シャープ)をボルゾフがホテルの中で追跡するシーンのビジーでハイテンションなサスペンス音楽で、シンバロンが効果的。ボルゾフは地下駐車場でカレンダーを1発で射殺するが、これはこの映画の中で唯一彼が拳銃を撃つシーン。「Lucky
Girl」は、ボルゾフとバーバラが飛行機をチャーターしてダルチムスキーの次のターゲットがいるホールダーヴィルへ向うシーンの音楽で、後半2人のロマンティックな関係を示唆する主題が一瞬登場するが、この主題はエンドクレジットで明確に演奏される。「Remember
Melikyan」は、次のターゲットのダグ・スターク(ジェンソン)に先回りして会うことができたボルゾフが、フロストの詩を引用してスタークを覚醒させるシーンの音楽。「The
Woods Are Lovely / The Purse」は、パブでボルゾフがダルチムスキーと対峙するクライマックスのサスペンス音楽。「Ten
More Miles / End Credits」は、エンディングのジェントルな主題からロシア風のワルツによるエンドクレジットへ。最後に、モンタナのモーテルのテレビで流れるアニメ番組のソース音楽「Cartoon
Source」が収録されている。薬物催眠を受けたスリーパー・スパイや厳寒のロシアといった設定の冷たい緊張感と不安感をシンバロンとピアノで巧みに表現したサスペンス音楽。
このスコアの初アルバム化で、レナード・ローゼンマン作曲の「(未公開)Hide
in Plain Sight」のスコアとのカップリングになっている。2000枚限定プレス。
(2011年3月)
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