激流 THE RIVER WILD
作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted
by
JERRY GOLDSMITH
未使用スコア作曲・指揮:モーリス・ジャール
Unused
Score
Composed
and Conducted by
MAURICE JARRE
(米Intrada /
Intrada Special Collection Vol.301)
1994年製作のアメリカ映画(日本公開は1995年4月)。監督は「窓・ベッドルームの女」(1986)「ゆりかごを揺らす手」(1991)「L.A.コンフィデンシャル」(1997)「ワンダー・ボーイズ」(2000)「8
Mile」(2002)「イン・ハー・シューズ」(2005)「マーヴェリックス/波に魅せられた男たち」(2012)等のカーティス・ハンソン(1945〜)。出演はメリル・ストリープ、ケヴィン・ベーコン、デヴィッド・ストラザーン、ジョセフ・マッゼロ、ジョン・C・ライリー、ベンジャミン・ブラット、エリザベス・ホフマン、ウィリアム・ラッキング、ステファニー・ソーヤー、ヴィクター・H・ギャロウェイ、ダイアン・デラーノ、トーマス・F・ダフィ、ポール・カンテロン、グレン・モーシャワー。脚本は本作が初作品となるデニス・オニールで、フライフィッシング愛好家である彼が釣り雑誌に発表した記事『Diary
of a Mad
Floater』を基に脚色。撮影はロバート・エルスウィット。逃走中の凶悪犯に同道させられ、怒濤さかまく急流下りに挑む一家の危難を描くサスペンス・アクション。主演のメリル・ストリープは、初の本格的アクションの撮影に当たってオリンピック代表選手からボートの操縦を学び、川下りの場面は全体の9割を自分でこなしている。ボストンに住むゲイル・ハートマン(ストリープ)は、息子のローク(マッゼロ)の誕生日を故郷で過ごすことにし、出迎えた両親(ホフマン、ギャロウェイ)に幼い娘ウィラ(ソーヤー)を預けて、2人は川下りの準備にかかる。そこでゲイルたちは、人なつこい青年ウェイド(ベーコン)に出会う。仕事一途で家庭を顧みない建築家の夫トム(ストラザーン)もやって来るが、ゲイルとの関係は冷めており、父親に反発しているロークも喜ばない。かつて急流下りのガイドをしていたゲイルの先導で、愛犬マギーも加わりブライダル・クリークへの川下りが始まるが……。メリル・ストリープが1994年度ゴールデン・グローブの女優賞(ドラマ)に、ケヴィン・ベーコンが同賞の助演男優賞にノミネートされている。脚本の修正には監督のハンソン自身とレイノルド・ギデオン、ブルース・エヴァンスも参加しており、女優のキャリー・フィッシャーがスクリプト・ドクターとしてストリープのセリフをポリッシュしている。
音楽は、当初デヴィッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」を手がけているフランスのベテラン作曲家モーリス・ジャール(1924〜2009)が作曲したが、テスト・スクリーニングを観たMCA社長のシド・シャインバーグ、ユニヴァーサル社長のケイシー・シルヴァーと製作部社長のハル・リーバーマンが彼のスコアをリジェクトしたため、監督のハンソンの推薦によりアメリカの作曲家ジェリー・ゴールドスミス(1930〜2004)が全く新しいスコアを作曲。このIntradaレーベルのCDは2枚組で、1枚目にゴールドスミス作曲のスコア、2枚目にジャール作曲の未使用スコアを収録。ジャールの音楽が自然との過酷な戦いに焦点を当てたダイナミックなシンフォニック・スコアとなっているのに対し、ゴールドスミスはフォークソング「The
Water Is
Wide」をベースにした大らかなメインの主題をベースにスコア全体を構成。1枚目のゴールドスミスのスコアの冒頭「Practice」は、「The
Water Is
Wide」をアレンジしたジェントルで大らかなフルートによる主題にトランペット、ストリングスが加わりドラマティックに盛り上がるメインタイトルで、中盤から躍動的なタッチに展開。名曲。このメインの主題は「The
Field」「Let's Go Boys」「Here We Go」「Wade's Over」「Same Old
Story」等で様々なアレンジメントにより繰り返される。「No Favors」「The Raft
(Original)」は、抑制されたサスペンス音楽。「Graffiti」は、幻想的なタッチ。「My
Life」「All Is Well」「Maggie's Back」「Secrets」「Anything I
Want」等は、サスペンス音楽。「Get the Drinks」「Go, Mom」「Vacation's
Over」は、ダイナミックでパーカッシヴなサスペンスアクション音楽。「Stand Off」「Run
Maggie」は、ダークなサスペンス音楽。「Pictures」「Where Are You?」「What
Happened?」は、重厚なサスペンス音楽。「Do
It!」は、ストイックなタッチ。「Ballast (Revised #1)」「One Left (Revised
#1)」は、パーカッシヴなサスペンス音楽。「Family Reunion (End
Title)」は、ジェントルなタッチからメインの主題、カウボーイ・ジャンキーズのヴォーカルによる「The Water Is
Wide」へと展開するエンドタイトル。最後にエクストラとして代替テイク等9曲を収録。
2枚目のジャール作曲のスコアの冒頭「The
Bridge」は、静かにジェントルなイントロからジャールらしい大らかなメインの主題へと展開。「We All
Go」は、メインの主題のヒロイックなアレンジメントから後半ジェントルなタッチへ。「Wade
Overboard」は、ヒロイックなファンファーレからパーカッシヴなサスペンス音楽に展開。「The Stakes Just
Got Higher」「Ranger Danger」は、不気味なサスペンス音楽。「Tom
Lost」は、静かにストイックなタッチ。「The Cliff」「Raft in Trouble」「Gail Strikes
Back」は、パーカッシヴなサスペンス音楽。「Hold
On」は、メインの主題を織り込んだパーカッシヴなサスペンス音楽。「The
Gauntlet」は、ダイナミックでパワフルなサスペンスアクション音楽。「Final
Fight」は、ジェントルなイントロからパーカッシヴなアクション音楽へ。「Reunion and End
Title」は、メインの主題による大らかなエンドタイトルから、(ゴールドスミス版と同様)カウボーイ・ジャンキーズのヴォーカルによる「The
Water Is
Wide」へと展開。最後にエクストラとして代替テイク等26曲を収録。
このスコア(ゴールドスミス作曲)は、公開当時にRCAレーベルから10曲/38分収録のサントラCDが出ていたが、このIntradaレーベルのCDはコンプリート・スコアの初CD化で限定プレス。また、2005年にイギリスでリリースされたDVD「Film
Music Masters: Jerry Goldsmith」(Music from the Movies
MFTMDVD-01)には、ゴールドスミス指揮によるスコアリング・セッションの映像が収録されている。
晩年になって本作品や「ジェニファー8」「白い嵐」等に作曲したスコアをリジェクトされたモーリス・ジャールは、「ハリウッドのプロデューサーたちは、出来の悪い映画でも音楽をすり替えれば大傑作になると勘違いしている」とコメントしており、それ以降より仕事を選ぶようになり、オリヴァー・ストーンやクェンティン・タランティーノ監督からのオファーも断ったという。
(2015年4月)
Jerry Goldsmith
Maurice Jarre
Soundtrack
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