名探偵登場 MURDER BY DEATH
作曲:デイヴ・グルーシン
Composed by DAVE GRUSIN
指揮:リチャード・ベレス
Conducted by RICHARD BERRES
演奏:ハリウッド・スタジオ交響楽団
Performed by the Hollywood Studio Symphony
(米Varese Sarabande /
VLE-9218)
1976年製作のアメリカ映画。監督は「名探偵再登場」(1978)「第2章」(1979)等のロバート・ムーア(1927〜1984)。出演はアイリーン・ブレナン、トルーマン・カポーティ、ジェームズ・ココ、ピーター・フォーク、アレック・ギネス、エルザ・ランチェスター、デヴィッド・ニーヴン、ピーター・セラーズ、マギー・スミス、ナンシー・ウォーカー、エステル・ウィンウッド、ジェームズ・クロムウェル、リチャード・ナリタ。脚本は「おかしな二人」(1968)「スイート・チャリティ」(1968)「ふたり自身」(1972)「グッバイガール」(1977)「カリフォルニア・スイート」(1978)「昔みたい」(1980)「ブルースが聞こえる」(1988)「アウト・オブ・タウナーズ」(1999)等のニール・サイモン(1927〜2018)。撮影はデヴィッド・M・ウォルシュ。ミステリ小説の有名な名探偵たちのパロディが嵐の山荘に招かれ、殺人事件の推理合戦をするというコメディで、ブロードウェイ喜劇の名手ニール・サイモンによるオリジナル脚本と豪華キャストの共演が見事な傑作。億万長者ライオネル・トウェイン(『ティファニーで朝食を』『冷血』等で知られるアメリカの小説家トルーマン・カポーティ(1924〜1984)が怪演)から「あなたを晩餐と殺人にご招待します」との招待状を受け取ったシドニー・ワン警部(セラーズ)とその日本人の養子ウィリー(ナリタ)、サム・ダイヤモンド(フォーク)とその助手テス・スケフィントン(ブレナン)、ミロ・ペリエ(ココ)とその運転手マルセル(クロムウェル)、ディック(ニーヴン)とドーラ(スミス)のチャールストン夫妻、ジェシカ・マーブルス(ランチェスター)とその看護師ウィザーズ(ウィンウッド)ら5組の探偵たち一行は、霧の立ちこめるヴィクトリア調のトウェイン邸に続々と到着し、盲目の執事ジェームズサー・ベンスンマム(ギネス)に迎え入れられる。彼らの前に突如姿を現したホストのトウェインは、「真夜中の零時に誰かが殺される。その犯人と被害者はいずれも今このダイニング・ルームにいる。諸君の中の誰にもその謎が解けないことに100万ドルを賭けよう」と告げて、忽然と姿を消すのだった……。
ここで登場するシドニー・ワンは、アール・デア・ビガーズ(1884〜1933)原作の中国人探偵チャーリー・チャンのパロディ。サム・ダイヤモンドは、ダッシェル・ハメット(1894〜1961)原作の私立探偵サム・スペードのパロディ。ディックとドーラのチャールストン夫妻は、同じくダッシェル・ハメットの原作を1934年に映画化した「影なき男(THE
THIN MAN)」に登場するニックとノーラのチャールズ夫妻のパロディで、この映画ではウィリアム・パウエルがニック、マーナ・ロイがノーラを演じた(マーナ・ロイはこの「名探偵登場」にもドーラ役での出演をオファーされたが断っている)。ミロ・ペリエは、アガサ・クリスティ(1890〜1976)原作のベルギー人探偵エルキュール・ポアロのパロディ、ジェシカ・マーブルスは同じくアガサ・クリスティ原作のミス・ジェーン・マープルのパロディである。当初はキャサリン・ヘップバーンがアビゲイル・クリスチャンというアガサ・クリスティのパロディを演じるはずだったが、マーナ・ロイが降板したことを知ったヘップバーンも出演を断ったという。
この映画は日本でのテレビ放映時の日本語吹替がまた見事で、ピーター・フォーク(小池朝雄)、ピーター・セラーズ(羽佐間道夫)、デヴィッド・ニーヴン(中村
正)、マギー・スミス(藤波京子)、ジェームズ・ココ(滝口順平)、エルザ・ランチェスター(高橋和枝)、アレック・ギネス(千葉耕市)、トルーマン・カポーティ(内海賢二)、アイリーン・ブレナン(花形恵子)、ジェームズ・クロムウェル(幹本雄之)、リチャード・ナリタ(千葉
繁)という豪華キャストだった。
音楽はジャズ・ミュージシャンとして知られ、「コンドル」(1975)「レーサー」(1969)「天国から来たチャンピオン」(1978)「黄昏」(1981)「ミラグロ/奇跡の地」(1988)「ザ・ファーム/法律事務所」(1993)等の映画音楽も手がけているデイヴ・グルーシン(1934〜)。「Suite:
Main Title / House of Twain / Sand and Wang」は、ミステリアスなイントロからとぼけたタッチのメインの主題へと展開するメインタイトルで、ミステリとコメディの絶妙なブレンドが見事。その後、各々の探偵たちが登場するシーンに合わせて、サックスをフィーチャーした気だるいタッチ(チャールストン夫妻)やオリエンタルなタッチ(シドニー・ワン)等の主題が続く。「Suite:
M. Perrier / Mushroom Idiot / Sam and Tess」は、アコーディオンによるメインの主題のワルツ調のアレンジメント(ミロ・ペリエ登場)からミュート・トランペットによるハードボイルドなタッチ(サムとテス)へ。「Broken
Bridge」は、シドニーとウィリーが今にも崩壊しそうな橋を車で渡るシーンのオリエンタルなタッチの曲。「Strange
Weather」「Angry Cat and Cozy Fire」「I'll Park the Car / Cobwebs」「Yetta」「Gather at
Table」「Suite: Holy Merde / Empty Room / Gun Shots / Re-Entry」「Getting Taller /
Cross Off Snake」等も、メインの主題の様々なバリエーション。「Suite: Trust and Change /
No Kissing / Hands of Time / Wang is Wrong」は、ミステリアスなタッチ、ハードボイルド調、メインの主題、気だるいタッチ、オリエンタルな主題とカラフルに展開する曲。「Suite:
Jessica Marbles / Death Mask / Toast to Lionel」は、ジェシカ・マーブルス登場シーンの英国調の優雅な主題からミステリアスなタッチへ。「Swords
and Beans」「Lockin' It Up / Twain Tango」は、サスペンス調の曲。「Mirrors」「Butler's
Demise」は、ミステリアスなタッチ。「Suite: Almost Midnight / 12 Chimes / Knife
in Twain's Back」は、ミステリアスな主題からオリエンタルな主題へ。「Suite: Mannequin /
Dirty Work / Jilted / Fathered / Wang's Father / Gay Bar / Goodnight」は、コミカルなタッチ、メランコリックなタッチ、ミステリアスなタッチと展開。「Suite:
Deadly Steam / Scorpio / Gas Works / Think I'm Gonna Cry」は、気だるいタッチからメインの主題、ハードボイルドなタッチと展開。「Suite:
Irving Goldman / Marvin Metzner / Poodle Session / Not Born with Beauty / Sam
Enters」は、クライマックスで各々の探偵が様々な自説を主張するシーンの音楽で、その展開に合わせて様々な主題が次々と登場。「Numero
Uno / Openin' Up / Gwine Home」は、ミステリアスなタッチから様々な主題へと展開。ラストの「End
Title」は、メインの主題によるエンドタイトル。ジョン・アディスン作曲の「探偵<スルース>」やヘンリー・マンシーニ作曲の「料理長殿、ご用心」等に通ずる、実に楽しいミステリ・スコアで、個人的には非常に嬉しいリリース。
このCDには、デイヴ・グルーシンが1970年に「アラバマ物語」(1962)「サンセット物語」(1965)「レッド・ムーン」(1968)「おもいでの夏」(1970)「悪を呼ぶ少年」(1972)等のロバート・マリガン監督(1925〜2008)による「幸せをもとめて(THE
PURSUIT OF HAPPINESS)」(出演:マイケル・サラザン、バーバラ・ハーシー、アーサー・ヒル、E・G・マーシャル、ウィリアム・ディヴェイン、チャールズ・ダーニング等)に作曲したスコア(全10曲)も収録している。こちらはハーモニカをフィーチャーした明るくジェントルなタッチのスコアで、「ナチュラル」(1984)「わが心のボルチモア」(1990)「レナードの朝」(1990)「トイ・ストーリー」(1995)「モンスターズ・インク」(2001)「カーズ」(2006)等のランディ・ニューマン(1943〜)の作詞・作曲・ヴォーカルによる主題歌「Let
Me Go」も含まれている。
いずれのスコアも初アルバム化で、1500枚限定プレス。
(2019年1月)
Dave Grusin
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