真昼の死闘 TWO MULES FOR SISTER SARA ◆追悼 エンニオ・モリコーネ◆

作曲:エンニオ・モリコーネ
Composed by ENNIO MORRICONE

(米La-La Land Records / LLLCD 1526)

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1970年のアメリカ=メキシコ合作映画(日本公開は1971年2月)。監督は「殺人者たち」(1964)「刑事マディガン」(1967)「マンハッタン無宿」(1968)「ダーティハリー」(1971)「突破口!」(1973)「テレフォン」(1977)等の犯罪アクション映画の名手ドン・シーゲル(1912〜1991)で、シーゲルはこの「真昼の死闘」の他に「マンハッタン無宿」(1968)「白い肌の異常な夜」(1971)「ダーティハリー」(1971)「アルカトラズからの脱出」(1979)でもクリント・イーストウッドと組んでいる。出演はシャーリー・マクレーン、クリント・イーストウッド、マノロ・ファブレガス、アルベルト・モリン、アルマンド・シルベストレ、ジョン・ケリー、デヴィッド・エスチュアルド、エイダ・カラスコ、パンチョ・コルドバ、ホセ・チャベス、ペドロ・ガルバン、ホセ・アンヘル・エスピノーサ、エンリケ・ルチェロ、アウロラ・ムノス、クサビエ・マルク他。バッド・ベティカーの原案を基にアルバート・マルツが脚本を執筆。撮影はガブリエル・フィゲロア。

元軍人の流れ者ホーガン(イーストウッド)は、メキシコ北部の荒地で3人の男(シルベストレ、ケリー、ルチェロ)に襲われていた尼僧サラ(マクレーン)を助けた。メキシコの革命ゲリラに雇われ、チワワのフランス警備隊を撃滅する作戦に加勢して報酬を得ようとしていたホーガンは、フランス軍に追われているサラと共に革命派のもとへと向かう……。インディアンの襲撃で肩に矢を射こまれたホーガンの代わりにサラが橋にダイナマイトを仕掛け、フランス軍の輸送列車を撃破するシーンが印象的。製作費は約250万ドル、全世界興行収入は約505万ドル。クリント・イーストウッドがオーストリアで「荒鷲の要塞」(1968)を撮影している最中に、共演者リチャード・バートンの当時の妻エリザベス・テイラーが自分とイーストウッドを主役とした企画として提案したものだったが、(バートンの次回作の撮影場所である)スペインでのロケ撮影を希望したテイラーに対し、映画会社のユニヴァーサルはメキシコでの撮影を主張し、2人の共演は実現しなかった。原題名の「TWO MULES」は「2頭のラバ」のことで、1頭はサラが乗っていたラバ、もう1頭はサラがふざけてラバ呼ばわりしていたホーガンを指す。
日本で1978年にテレビ放映された際の日本語吹替キャストは、シャーリー・マクレーン(鈴木弘子)、クリント・イーストウッド(樋浦勉)、マノロ・ファブレガス(緑川稔)、アルベルト・モリン(緒方賢一)他で、山田康雄氏が現役でイーストウッドのフィックス声優だった時期に彼以外の声優が吹き替えた珍しい作品。


近代映画音楽史を代表するイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネが、2020年7月6日に91歳でこの世を去った。転倒して大腿骨を骨折、入院して手術を受けたが、6日早朝に骨折に伴う合併症により死去。数カ月前まで映画音楽の作曲を続けていたという。1928年にローマで生まれたモリコーネは、1960年代から50年以上に渡り500本以上の長編映画/テレビ作品の音楽を作曲。その膨大な作品数だけにも圧倒されるが、この中には映画音楽史に残る数多くの傑作スコアが含まれている。どの作品も極めて独創的な主題と楽器の編成(彼はオーケストレーションをすべて自分で手がけた)により、明確な個性を持った素晴らしい音楽だった。2004年と2005年にローマ交響楽団を指揮して来日公演を行った際にも、感動的な演奏を聴かせてくれた。

モリコーネは、小学校時代の同級生だったセルジオ・レオーネ監督がクリント・イーストウッド主演で撮ったウエスタン3部作「荒野の用心棒」(1964)「夕陽のガンマン」(1965)「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」(1966)のスコアで世界的に有名になったが、イーストウッドが自ら監督作品を作り始めてモリコーネに音楽を依頼した際に、レオーネへの敬意からこれを断ったという。彼が監督した作品が嫌いだったわけではなく、後になって後悔したと述べている。
イーストウッドが監督していないが出演はしている映画のスコアは過去に何度か手がけており、そのうちの1本がこの「真昼の死闘」(1970)である(これ以外には「華やかな魔女たち」(1967)「ザ・シークレット・サービス」(1993)を担当)。

この「真昼の死闘」のスコアは、公開当時の1970年に米Kappレーベル(Kapp KRS 5512)や日本、イギリス、イタリア、フランス等のMCAレーベルから全11曲/33:42収録のサントラLPが出ており、その後1994年にイタリアのLegendレーベルがモリコーネ作曲の「天国の日々(Days of Heaven)」とカップリングにしたLPと同内容のCD(Legend CD 16)をリリースしているが、このLa-La LandレーベルのCDは2枚組で、1枚目にコンプリートスコア、2枚目に1970年版の内容を収録(全32曲/93:40)。当初は映画の50周年記念盤として計画されていたが、今回モリコーネの追悼盤としてリリースされたもので、3000枚限定プレス。

CD1枚目の冒頭「Main Title (Film Version)」は、静かなイントロからピッコロやハモンドオルガンによるやや殺伐としたタッチのメインの主題へと展開し、途中にサラを描写した讃美歌風の荘厳な女声コーラスが挿入されるメインタイトル。極めて独創的なメインの主題で、この後も「The French Are Coming」「Two Mules Theme」「Up That Tree / Colonel Dies」「Trestle」「Two Mules Theme (Reprise)」等で全編を通して繰り返し登場する。オープニングのクレジットは、主人公の野獣のようなワイルドさを表現するために、馬に乗って進むイーストウッドの前景に様々な野生動物が現れるショットの積み重ねとなっており、モリコーネの音楽もフルートやリコーダー等の様々な楽器により動物の鳴き声を表現している。「Dynamite」「Hiding in the Ruins」「Hiding in the Ruins Again」「Night in Juarista Cave」は、サスペンス音楽。「Sara's a Sister」「Sara's Ruse / Hogan Kisses Sara」は、讃美歌風のサラの主題。「A Time for Miracles (Film Version)」は、ギターによるややメランコリックなタッチの主題。「La Cueva (Film Version)」は、ストイックなタッチからサラの主題、メインの主題へ。「Yaqui Go Home」は、ダイナミックでパーカッシヴなサスペンス音楽。「La Cantina (Film Version)」は、ギターによるドラマティックなタッチの曲。「The Swinging Rope (Film Version)」は、マーチ調の主題からストイックなタッチのサスペンス音楽へ。「Arrival at the Church」も、マーチ調の主題。「The Battle (Film Version)」は、ダイナミックなサスペンスアクション音楽。「End Title Theme」「Main Title (Original Version)」は、メインの主題のリプライズ。クレジットされていないが、オーケストラの指揮はブルーノ・ニコライが担当している。

ドン・シーゲル監督は、このスコアについて「映画のために作曲された音楽の中で最も独創的で並外れたものの1つで、私に言わせればモリコーネは天才だ」とコメントしており、このスコアがアカデミー賞を受賞するに違いないと考えていたという。
(2020年8月)

Ennio Morricone

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