シャーロック・ホームズの素敵な挑戦 THE SEVEN-PER-CENT SOLUTION

作曲・指揮:ジョン・アディスン
Composed and Conducted by JOHN ADDISON

(スペインQuartet Records / QR414)

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1976年製作のイギリス=アメリカ合作映画(日本公開は1977年4月)。製作・監督は「シーラ号の謎」(1973)「愛と喝采の日々」(1977)「グッバイガール」(1977)「カリフォルニア・スイート」(1978)「フットルース」(1984)「摩天楼はバラ色に」(1986)「マグノリアの花たち」(1989)等のハーバート・ロス(1927〜2001)。出演はニコル・ウィリアムソン、アラン・アーキン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ロバート・デュヴァル、ローレンス・オリヴィエ、ジョエル・グレイ、サマンサ・エッガー、ジェレミー・ケンプ、チャールズ・グレイ、レジーヌ、ジョージア・ブラウン、アンナ・クエイル、ジル・タウンゼント、ジョン・バード、アリソン・レガット他。アーサー・コナン・ドイル(1859〜1930)が創造した名探偵シャーロック・ホームズのキャラクターをベースに、「故郷への長い道/スター・トレック4」(1986)「ジャック・サマースビー」(1993)「白いカラス」(2003)等の脚本や「タイム・アフター・タイム」(1979)「スター・トレック2/カーンの逆襲」(1982)「ザ・デイ・アフター」(1983)「スター・トレックVI/未知の世界」(1991)等の監督を手がけているシャーロッキアンのニコラス・メイヤー(1945〜)が執筆した原作(立風書房刊)をメイヤー自ら脚本化。撮影はオズワルド・モリス。

1891年春。ワトソン(デュヴァル)がベーカー街221Bを訪れると、コカイン中毒となったシャーロック・ホームズ(ウィリアムソン)が宿敵モリアーティ教授を倒すことに取りつかれ、熱にうなされていた。帰宅したワトソンをモリアーティ教授(オリヴィエ)が待ち受けており、ホームズから不当に迫害されていると訴えるのだった。ホームズのコカイン中毒を治療するため、ワトソンはオーストリアの精神科医ジークムント・フロイト(アーキン)に彼を診てもらうべく、妻メアリー(エッガー)やホームズの兄マイクロフト(C・グレイ)の助けを借りて彼をウィーンへと連れ出した。フロイトの治療を受けたホームズは、同じく彼の患者だった歌手ローラ・デヴロー(レッドグレーヴ)の失踪事件を調査することになる……。原題名の「THE SEVEN-PER-CENT SOLUTION」は「7%のコカイン溶液」の意味。1976年度アカデミー賞の脚色賞と衣装デザイン賞にノミネートされている。

日本でのテレビ放映時の吹替キャストはニコル・ウィリアムソン(仲村秀生)、ロバート・デュヴァル(森川公也)、アラン・アーキン(宮田光)、ヴァネッサ・レッドグレーヴ(平井道子)、ローレンス・オリヴィエ(松岡文雄)、サマンサ・エッガー(宗形智子)、ジョエル・グレイ(広瀬正志)、ジェレミー・ケンプ(大宮悌二)、チャールズ・グレイ(西田昭市)、ジョージア・ブラウン(山田礼子)、レジーヌ(秋元千賀子)他だった。

音楽は「トム・ジョーンズの華麗な冒険」(1963)「引き裂かれたカーテン」(1966)「探偵<スルース>」(1972)「カリブの嵐」(1976)「遠すぎた橋」(1977)「(TV)ジェシカおばさんの事件簿」(1984〜1996)等のイギリスの作曲家ジョン・アディスン(1920〜1998)。当初は(映画音楽愛好家でもある)ニコラス・メイヤーの希望でバーナード・ハーマンがスコアを作曲することになっていたが、ハーマンが1975年12月24日に他界したため、メイヤーはジョン・アディスンの起用を提案したという。このスコアは、公開当時の1976年に作曲家自ら編曲・再構成した全14曲のサントラLPがMCAレーベルからリリースされる予定だったが、これはキャンセルされて、映画音楽史学者のトニー・トーマスがプロデュースした同内容のプライヴェート盤LP(Citadel Records CT-JA 1)のみが出回った(これは後に海賊盤CD化された)。このQuartetレーベルのCDは2枚組となっており、1枚目にエクスパンデッド・スコアと追加音楽、2枚目に1976年盤の内容を収録したもの(全48曲/約100分)。

CD1枚目の冒頭「Main Title Theme」は、静かにジェントルなヴァイオリン・ソロによるシャーロックの主題から躍動的なスペイン舞踏音楽風の主題、ツィンバロムをフィーチャーしたビジーなハンガリー舞踏音楽(チャールダーシュ)風の主題、ロマンティックなローラの主題へと展開するメインタイトル。名曲。「221B Baker Street - Meet Sherlock Holmes」「Flashback / Surprise Visit」は、サスペンス調からシャーロックの主題へ。「Chapter Headings / Mycroft's Plan」「Introduction to Freud / The Hypnotist」「The Baron's Visit」は、抑制されたサスペンス音楽。「Journey to Vienna (Film Version)」「Bergassestrasse (Follow The Clues)」は、サスペンス調から優雅なワルツの主題へ。「Cocaine Nightmare Sequence」は、抑制されたサスペンス音楽からジェントルな主題、ダークで不気味なタッチへと次々に展開する曲。「Friends」は、ジェントルなタッチの曲。「Tennis Duel (Film Version)」は、フロイトとフォン・ラインスドルフ男爵(ケンプ)がテニスで対決するシーンのスペイン舞踏音楽風の主題。「Fraulein Deveraux (Film Version)」は、抑制されたサスペンス調からロマンティックなローラの主題へ。「Flashback / False Trail」は、ややとぼけたタッチのサスペンス音楽。「Killer Horses」は、ダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Abduction of Fraulein Deveraux」は、トルコ風の主題からサスペンス音楽へ。「Lily Trail / Turkish Clue / Flashback」は、明るく快活なタッチから抑制されたサスペンス音楽、シャーロックの主題へ。「Orient Express」「The Pasha's Train (Film Version)」「The Baron's Revolver / Collision」は、クライマックスの列車のシーンでのツィンバロムをフィーチャーしたビジーなハンガリー舞踏音楽風の曲。「Sabre Duel」「The Baron Vanquished」は、躍動的なスペイン舞踏音楽風の曲。「Flashbacks / Trauma」は、サスペンス調の曲。「End Title Theme」は、シャーロックの主題、優雅なワルツの主題、ローラの主題を含むエンドタイトル。
最後に追加音楽としてメインタイトルやエンドタイトルの別バージョン、劇中のソース曲(レントラーやポルカ等の舞踏音楽)等11曲を収録。この中の「The Madam's Song」「薔薇のスタビスキー」(1973)「レッズ」(1981)「ディック・トレイシー」(1990)等のアメリカの作曲家スティーヴン・ソンドハイム(1930〜)作曲による挿入歌で、売春宿のシーンでマダム(レジーヌ)が歌う曲。ソンドハイムはミステリ・マニアとしても知られ、同好の士である俳優のアンソニー・パーキンスと一緒にハーバート・ロスか監督した「シーラ号の謎」(1973)の脚本も書いている。
CD2枚目の内容は大半が1枚目と重複しているが、ドラマティックなタッチの「Sherlock Holmes Passacaglia」が秀逸(「パッサカリア」は17〜18世紀バロック音楽の楽曲の形式)。
「探偵<スルース>」と並ぶジョン・アディスンの“ミステリ・スコア”の傑作。2000枚限定プレス。
(2020年8月)

John Addison

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