フレンジー FRENZY
作曲・指揮:ロン・グッドウィン
Composed and Conducted by RON GOODWIN
作曲・指揮:ヘンリー・マンシーニ
Rejected Score Composed and Conducted by HENRY MANCINI
(スペインQuartet Records / QR505)
1972年製作のイギリス映画。製作・監督は「裏窓」(1954)「知りすぎていた男」(1956)「めまい」(1958)「北北西に進路を取れ」(1959)「サイコ」(1960)等のサスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック(1899〜1980)で、これは彼がキャリア後期に母国イギリスに戻って撮影したサスペンス・スリラーの傑作。出演はジョン・フィンチ、バリー・フォスター、バーバラ・リー=ハント、アンナ・マッセイ、アレック・マッコーウェン、ヴィヴィエン・マーチャント、ビリー・ホワイトロー、クライヴ・スウィフト、バーナード・クリビンス、マイケル・ベイツ、ジーン・マーシュ、マッジ・ライアン、エルシー・ランドルフ、ジェラルド・シム、ジョン・ボクサー他。アーサー・ラ・バーンの原作『Goodbye
Piccadilly, Farewell Leicester Square』を基に「探偵<スルース>」(1972)「ウィッカーマン」(1973)「ナイル殺人事件」(1978)「地中海殺人事件」(1982)等のアンソニー・シェイファー(1926〜2001)が脚本を執筆。撮影はギル・テイラーとレオナード・J・サウス。
ロンドンのテームズ河岸で首に縞柄のネクタイを巻き付けた全裸の女の死体が発見された。勤め先の酒場をクビになったリチャード・ブレイニー(フィンチ)は、友人のロバート・ラスク(フォスター)に助けを求めた後、2年前に離婚したブレンダ(リー=ハント)の経営する結婚相談所に行き、自分の窮状を訴えた。翌日、ブレンダのオフィスにロビンソンとの偽名を使ってラスクがやって来て、ブレンダを凌辱した上でネクタイで絞殺した。ラスクが帰った直後にブレイニーがオフィスを訪れたが、鍵がかかっていたため引き返す姿をブレンダの秘書モニカ(マーシュ)に目撃されてしまった。その結果、殺人の容疑者として警察に追われる身となったブレイニーは、酒場で一緒に働いていたバブス・ミリガン(マッセイ)を誘ってホテルに泊まったが、支配人に通報され間一髪で脱出するのだった……。バブスを絞殺して死体をじゃがいも袋に詰めてトラックの荷台に投げ込んだラスクが、自分のネクタイピンをバブスにもぎ取られたことを悟り、トラックの荷台に飛び乗って死体からピンを取り戻そうとするシーンのサスペンス演出が秀逸。製作費は約200万ドル。日本でテレビ放映された際の吹替キャストは、ジョン・フィンチ(内海賢二)、バリー・フォスター(穂積隆信)、バーバラ・リー=ハント(水城蘭子)、アンナ・マッセイ(野沢雅子)、アレック・マッコーウェン(大木民夫)、ヴィヴィアン・マーチャント(香椎くに子)、ビリー・ホワイトロー(此島愛子)、クライヴ・スウィフト(滝口順平)、バーナード・クリビンス(今西正男)、マイケル・ベイツ(槐柳二)、ジーン・マーシュ(加藤みどり)他。
音楽は、当初「ティファニーで朝食を」(1961)「ハタリ!」(1962)「酒とバラの日々」(1962)「シャレード」(1963)「ピンクの豹」(1963)「ひまわり」(1970)「料理長殿、ご用心」(1978)「スペースバンパイア」(1985)等のヘンリー・マンシーニ(1924〜1994)が起用されてスコアを作曲・録音したが、このスコアはヒッチコック監督によりリジェクトされ、「633爆撃隊」(1964)「素晴らしきヒコーキ野郎」(1965)「荒鷲の要塞」(1968)「空軍大戦略」(1969)「ナバロンの嵐」(1978)等のイギリスの作曲家ロン・グッドウィン(1925〜2003)が全く新しいスコアを作曲した。マンシーニのリジェクテッド・スコアは、彼が過去に手がけたサスペンス映画のスコアを1990年に自ら再録音したコンピレーションCD「Mancini
In Surround」(RCA Victor
60471-2-RC)にメインタイトルが収録されており、また、グッドウィンのスコアは、ヒッチコック監督作品のテーマ曲を集めた1999年リリースのコンピレーションCD「Alfred
Hitchcock Presents Signatures In Suspense」(Hip-O Records HPD 64661)に「The London
Theme」が収録されていた。Quartetレーベルが映画の50周年を記念して2022年12月にリリースしたこのCDは、前半にグッドウィンのスコア、後半にマンシーニのリジェクテッド・スコアを初収録したもので、3000枚限定プレス。
ロン・グッドウィン作曲のスコアの冒頭「Main
Title」は、栄光に満ちた優雅で荘厳なマーチによるメインタイトルで、グッドウィンの個性が強く表れた名曲。「Covent
Garden」は、明るく快活なタッチの曲。「Frenzy」は、ダークでダイナミックなサスペンス音楽。「Arrival
at Brenda's Flat」「In the Salvation Army Hostel」は、抑制されたタッチのサスペンス音楽。「Death
of Brenda」「A Talk in the Park」は、ドラマティックなサスペンス音楽。「Fugitive from
the Coburg Hotel」は、躍動的でダイナミックなサスペンス音楽。「A Spree de Corpse」は、ダークなワルツ調のサスペンス音楽。「Murder
Flashback」は、ブラスとストリングスによるショック音楽から躍動的でダイナミックなサスペンス音楽へ。「Escape and
Retribution」は、不吉なタッチの主題から、後半躍動的でダイナミックなサスペンス音楽へ。「Frenzy (End Title)」は、ダイナミックなイントロからメインの主題のリプライズへと展開するエンドタイトル。この後に、リリカルでジェントルなピアノとチェロによる「Poem」、ポップ曲「Juke
Box」のソース曲と、追加音楽として「Murder Flashback (Alternate)」の代替テイク、映画で使われたエンドタイトル「Frenzy
(End Title)(Film Version Edit)」を収録。演奏はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。これはグッドウィンの手がけた作品中でも長年サントラのリリースが要望されていたスコアで、ファンとしては嬉しいリリース。
ヘンリー・マンシーニ作曲のリジェクテッド・スコアの冒頭「Prologue」は、オルガンとストリングスによるダークで重厚な教会音楽調の前奏曲で、グッドウィンとは全く異なるアプローチなのが興味深い。「My
Tie Is Your Tie」「My Kind of Woman」「Son of My Kind of Woman」「Hot Potatoes」「Rusk
on Candid Camera」「Off to Rusk's Place」は、ダークで抑制されたサスペンス音楽。「Exit
Oscar Wilde」「The Inspector Thinks」は、ドラマティックなサスペンス音楽。「Big Drag
for Babs」「Babs Grabs」は、重厚でダイナミックなサスペンス音楽。「End Credits / End
Rusk」は、ダークでドラマティックなエンドクレジット。全体にあまりマンシーニの個性を感じさせない重苦しくロー・キーなスコア。ヒッチコックはまさにその点に失望したらしく、マンシーニの長いキャリアの中で、リジェクトされたスコアはこの作品だけである。最後にヴァイオリン、ピアノ、チェロをフィーチャーしたジェントルな「Posh
for Two」、軽快なポップ曲「Tijuana on Thames」のソース曲と、追加音楽として「Prologue
(Alternate)」「Babs Grabs (Alternate)」の代替テイクを収録。
マンシーニとグッドウィンは長年の友人同士で、マンシーニをリプレースすることになったグッドウィンはマンシーニに電話して、いかに難しい決断だったかという気持ちを彼に伝えたという。マンシーニによると、グッドウィンは、スコアを入れ替えるにあたり新しいスコアにヒッチコックが何を求めているのかとの分析をまとめたものを、マンシーニに読んで聞かせてくれたらしい。
一番最後に収録されている「Descriptions for Alfred Hitchcock」は、ロン・グッドウィンによるスコアの録音に立ち会えなかったヒッチコックのために、エディターのジョン・ジンプソンが各曲の内容を言葉で説明したもの。
(2023年4月)
Ron Goodwin
Henry
Mancini
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