華麗なる大泥棒 LE CASSE
作曲:エンニオ・モリコーネ
Composed by ENNIO MORRICONE
指揮:ブルーノ・ニコライ
Conducted by BRUNO NICOLAI
(仏Music Box Records /
MBR-232)
1971年製作のフランス=イタリア合作映画(英語題名は「THE BURGLARS」)。製作・監督は「地下室のメロディー」(1963)「ダンケルク」(1964)「シシリアン」(1969)「恐怖に襲われた街」(1975)「追悼のメロディ」(1976)等のアンリ・ヴェルヌイユ(1920〜2002)。出演はジャン=ポール・ベルモンド、オマー・シャリフ、ダイアン・キャノン、ロベール・オッセン、ニコール・カルファン、ミリアム・コロンビ、ラウール・デルフォッス、ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ、レナート・サルヴァトーリ、マルク・アリアン、アリス・アルノ、ロベール・デュラントン、スティーヴ・エッカルト、ロジェ・ルモン、レモ・モスコーニ他。「ピアニストを撃て」(1960)「狼は天使の匂い」(1972)「溝の中の月」(1982)等のアメリカの作家デヴィッド・グーディス(1917〜1967)の原作『The
Burglar』を基にアンリ・ヴェルヌイユとヴァエ・カッチャが脚本を執筆。撮影はクロード・ルノワール。
1970年代のギリシャ、アテネ。リーダーのアザド(ベルモンド)と、ラルフ(オッセン)、レンツィ(サルヴァトーリ)、エレーヌ(カルファン)の4人組のプロの宝石強盗グループは、裕福な宝石商タスコ氏(ヴィラロンガ)の豪邸に侵入し、特殊な装置を使って金庫を開けると、皮のケースに入った100万ドル相当の大粒のエメラルド36個を盗み出す。そこに車で通りかかったギリシャ警察のアベル・ザカリア警部(シャリフ)は、邸宅の門前に停車したアザドたちの車に気づいていたが、敢えて彼らをそのまま逃がす。翌日早朝に港に向った4人は、逃亡用に用意した船が修理のためにドック入りしたことを知り、数日間身を潜めることになった。ラルフとレンツィは港の倉庫に、エレーヌは近くのホテルに身を隠した。そして1人で車を走らせるアザドを、ザカリア警部の車が執拗に追跡していた。警部の狙いは強盗グループの逮捕ではなく、彼らを見逃すのと引き換えに宝石を手に入れることだった……。アクション・スターとしてのベルモンドの脂が乗りきっていた頃の作品で、派手なスタント・シーンの殆どを彼自身が演じている。
音楽はアンリ・ヴェルヌイユ監督と「サン・セバスチャンの攻防」(1968)「シシリアン」(1969)「エスピオナージ」(1973)「恐怖に襲われた街」(1975)等でも組んでいるエンニオ・モリコーネ(1928〜2020)。このスコアは公開当時の1971年にフランスのBell/Pathé
Marconiレーベルから全12曲/約40分収録のサントラLP(Bell Records/Pathé Marconi 2C
062-92.889)が出ており、同内容のLPが各国から出ていた他、1997年にフランスのPlaytimeレーベルが「恐怖に襲われた街」とカップリングになった2000枚限定プレスのCD(Playtime
PL 970429)をリリースしているが、これにはミレイユ・マチューによる挿入歌2曲が追加されていた。その後2015年にフランスのMusic
Boxレーベルがボーナストラックを含む全18曲/約59分収録のCD(Music Box Records
MBR-232)をリリース(1000枚限定プラス)しており、2023年11月に同じMusic
Boxレーベルが出したこのCDは、同じ内容(マチューの歌2曲を除く)をリマスターした再発盤で、500枚限定プレス。
「Le
Casse (Générique)」は、明るくリズミックで華麗なタッチのメインタイトルで、基本は同じフレーズが最初から最後まで反復される曲だが、その繰り返しに強烈なインパクトがあるモリコーネらしい名曲。「Thème
d'amour」は、ジェントルでリリカルなアザドとエレーヌのラヴ・テーマ。「Marinella」は、明るく陽気なタッチの曲。「La
fille à la frange」は、ザカリアの情婦でストリッパーのレナ(キャノン)が登場するシーンの陽気なダンスミュージック。「Ciao
Mantovani」「A Carlo S.」「A Melachrino」「Pour Zacharia」は、イージーリスニング風のリリカルでロマンティックな曲。「Rodéo」は、リズミックでストイックなタッチ。「Virage
dangereux」は、メインの主題を織り込んだ不吉なサスペンス音楽。「Ma non troppo erotico」は、女声ヴォーカルをフィーチャーしたダイナミックなジャズ。「Irène」は、メランコリックかつリリカルなタッチの曲。最後にブルーノ・ニコライの編曲・指揮による「Le
Casse (version alternative)」「Rodéo (version alternative)」の代替バージョン、ブラジル出身の歌手アストルーヂ・ジウベルト(1940〜2023)によるラヴ・テーマ「Una
donna che ti ama」とメインの主題「Argomenti」のヴォーカル版を収録。劇中の強盗シーンや激しいカーチェイス・シーンには全くアンダースコアがなく、全体に明るいイージーリスニング調のスコアとなっている。
このスコアでオーケストラの指揮を担当しているブルーノ・ニコライ(1926〜1991)は、若い頃にエンニオ・モリコーネと共にイタリアの現代音楽作曲家ゴッフレード・ペトラッシ(1904〜2003)に師事した仲間であり、モリコーネが作曲したいくつものスコアでオーケストラを指揮しているだけでなく、自らも多数の映画音楽を作曲している名手である。彼はある時点でモリコーネとのコンビを解消し、それ以来二度と組んでいないが、1991年に65歳で他界しており、その訣別の事情は明らかではなかった。2022年にモリコーネのドキュメンタリー「モリコーネ
映画が恋した音楽家」を監督したジュゼッペ・トルナトーレが、モリコーネにインタビューした著書『エンニオ・モリコーネ
映画音楽術 マエストロ創作の秘密―ジュゼッペ・トルナトーレとの対話』が出版され、この中でその経緯をモリコーネ自身が語っている。少し長くなるが、ここに引用しておく。
−トルナトーレ:私の知る限りでは、セルジオ(・レオーネ)は時々、自分が関与しない、貴方の仕事にまで何らかの形で入り込んでいますよね。
−モリコーネ:よくありましたよ。「荒野の10万ドル」はアルベルト・デ・マルティーノとの初めての仕事となるはずでした。引き受けたのですが、それがレオーネの耳に入り私に言ってきたんです。「こっちをやりながらデ・マルティーノの西部劇もやるつもりか?
西部劇2本は無理だろ?」。私はデ・マルティーノに言います。「申し訳ない。この映画はできない」。彼は喰い下がりましたが、あきらめてくれました。私は代わりとしてブルーノ・ニコライを薦めます。彼は担当してくれました。こんな後味の悪いことがあってもまたデ・マルティーノから声がかかります。「今回ばかりは君にやってもらわないと」。彼に言いました。「駄目だよ。ニコライと上手くいっているじゃないか。僕の出る幕じゃない、ブルーノに失礼だ」。彼は粘りまして、ついには音楽は私が半分、ニコライが半分で分担することを思いつきます。ブルーノは異存ないとのことでした。こうしてその後のアルベルト・デ・マルティーノの映画の何本かは、音楽が私とブルーノ・ニコライ、2人の連名となっています。私にとってはあまり喜ばしいものではありませんでしたが、彼は作曲家としても指揮者としても有能でしたので、特別な例外として私は受け止めたのです。デ・マルティーノの映画を5、6本手掛けてからでしょうか、ある日ブルーノが私に声をかけてきました。「別の監督から僕に依頼が来たんだけど、君との共同で音楽を担当してくれないかと言うんだ」。私は彼に言いました。「ブルーノ、僕たちはガリネイとジョヴァンニーニみたいになってしまっている。2人で担当し、仕事をしても支払いはひとり分だよね?
こんな取り決めはもうここまでにしよう。今からはコンビはきっぱりと解消しようよ」。実を言うとオーケストラの指揮に彼を起用しなくなっていたんです。と言うのも私が仕事を沢山こなすのが難しい状況になってきたということもありました。ブルーノが裏で私に代わって作曲し、楽器編成まで手掛けているという噂が飛ぶようになったのです。根も葉もない下劣なデタラメで、こんな嘆かわしい出来事によって私は彼と袂を分かちたくなりました。私の作曲家としての充分な自主性を求めたのです。不幸なことにニコライは若くして亡くなります。ですが彼の死が、万一必要とあらば、私の音楽が他の誰のものでもない、私の手による作品であるに他ならないことの例証となったのです。
(出典:『エンニオ・モリコーネ 映画音楽術 マエストロ創作の秘密―ジュゼッペ・トルナトーレとの対話』P215〜216)
(2024年1月)
Ennio Morricone
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