砂漠の流れ者   THE BALLAD OF CABLE HOGUE

作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH

(米Varese Sarabande / VCL 0502 10076)


「ワイルドバンチ」(1969)「わらの犬」(1971)「ゲッタウェイ」(1972)「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」(1973)「ガルシアの首」(1974)「戦争のはらわた」(1977)等、激しい暴力描写で知られるサム・ペキンバーが1970年に監督した“非暴力的”なウエスタン。出演はジェイスン・ロバーズ、ステラ・スティーヴンス、デヴィッド・ワーナー、ストローザー・マーティン、スリム・ピケンズ、L・Q・ジョーンズ、R・G・アームストロング、ピーター・ホイットニー他。脚本はジョン・クロフォードとエドマン・ペニーが担当。撮影はペキンパー作品の常連ルシアン・バラード。砂漠の真ん中で偶然にも泉を発見してそこに駅馬車の駅を作り、仇が現れるのを悠長に待ち続けるケイブル・ホーグの復讐劇を描く。元々はペキンパーの友人であるウォーレン・オーツが自ら主演するつもりで持ち込んだ企画だったが、結果として主役のケイブル・ホーグはアカデミー賞俳優のジェイスン・ロバーズが演じた。

サム・ペキンパー監督作品の音楽というと、ジェリー・フィールディングとのコラボレーションが有名で、「ワイルドバンチ」「わらの犬」「ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦」「ゲッタウェイ」(但し、この作品は主演のマックイーンがフィールディングの書いた音楽をリジェクトし、クインシー・ジョーンズに作曲を依頼した)「ガルシアの首」「キラー・エリート」等で組んでいるが、この「砂漠の流れ者」はプロデューサーであるフィル・フェルドマンの推薦によりジェリー・ゴールドスミスが音楽を担当している(ジョン・ウィリアムスデイヴ・グルーシンも一時期候補に上がっていた)。このCDのライナーノーツによると、フェルドマンはペキンパーの前作「ワイルドバンチ」をプロデュースした際にラロ・シフリンを起用したかったらしいが、ペキンパーの強い希望でフィールディングがアサインされた。ところがフェルドマンはこのフィールディングのスコアに強い不満を持っており、「砂漠の流れ者」の作曲家を決める際にはフィールディング本人に対して「『ワイルドバンチ』に貴方が書いたスコアは大半が誇張気味でずうずうしく、気を散らすものであり、私が製作した映画を台無しにしている。よって今回は自ら辞退してもらいたい」との手紙を送り付けている。因みに、私個人としてはフィールディングが「ワイルドバンチ」に作曲したスコアはアメリカ映画音楽史上に残る傑作だと思うし、この「砂漠の流れ者」にフィールディングが音楽をつけていたらどんなスコアになっていただろうかと思うと興味がつきない。

このCDの冒頭の「Tomorrow Is the Song I Sing」は、ゴールドスミスが作曲し、リチャード・ギリス(とあるバーで歌手として出演してたのをペキンパーが発見してその場で雇った)が作詞して自ら歌っている主題歌で、のどかでジェントルなタッチの愛すべき曲。映画の寓話的なタッチにもよく合っていると思う。この主題は「New Lodgings」「The Flag」「Three Hours Early」等でも効果的に使われている。全体にギター、ハーモニカ、ストリングスを中心にした穏やかなスコアだが、陽気でコミカルな「Hasty Exit」や荘厳な讃美歌風の「A Soothing Hand」といった曲も登場する。「The Water Hole」「The Rattlesnakes」「The Guest」「Hildy Leaves」といった曲はゴールドスミスが作曲したウエスタン・スコア中でも最もジェントルな音楽の数々だろう。尚、リチャード・ギリスはジェイスン・ロバーズとステラ・スティーヴンスの歌う挿入歌「Butterfly Mornin's(Hildy's Theme)」と、自身が歌っている「Wait for Me, Sunrise」の作曲・作詞も担当している(編曲はゴールドスミス)。

尚、この映画のサントラ盤は公開当時にリリースされておらず(主題歌「Tomorrow Is the Song I Sing」のみ、過去に米Centurionという海賊盤レーベルから出ていたコンピレーションLPに収録されていた)、今回32年ぶりに米Varese SarabandeレーベルからリリースされたこのサントラCDは、全20曲入りで限定3,000枚がプレスされたものである。
(2002年6月)

Jerry Goldsmith

ゴールドスミスのウエスタン・スコア

Soundtrack Reviewに戻る


Copyright (C) 2002  Hitoshi Sakagami.  All Rights Reserved.