荒鷲の要塞  WHERE EAGLES DARE

クロスボー作戦  OPERATION CROSSBOW

作曲・指揮:ロン・グッドウィン
composed and Conducted by RON GOODWIN

(米Film Score Monthly / FSM Vol.6 No.21)

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ロン・グッドウィンがスコアを作曲した戦争映画2作をカップリングにしたCD2枚組リリース。「荒鷲の要塞」は映画公開当時にサントラLPがMGMレーベルからリリースされており、このアルバムはその後CD化もされているが、これはアルバム用にアレンジされた再録音盤だった(この再録音盤のレビューは「Editor's Choice」をご参照)。今回のCDは映画のサウンドトラック音源を初収録した完全盤で、ファンとしては待望のリリースとなる。2枚目の前半に収録された「クロスボー作戦」のサントラも初リリース。

「荒鷲の要塞」は、1968年製作のアメリカ=イギリス合作映画。監督は俳優出身で「追いつめて殺せ!」(1968)「戦略大作戦」(1970)「ある愛のすべて」(1972)「夜をみつめて」(1973)「ハイ・ロード」(1983)等の監督作があるブライアン・G・ハットン。出演はリチャード・バートン、クリント・イーストウッド、メアリー・ユーア、パトリック・ワイマーク、マイケル・ホーダーン、ドナルド・ヒューストン、ピーター・バークワース、ウィリアム・スクワイア、ロバート・ビーティ、ブルック・ウィリアムス、ニール・マッカーシー、ヴィンセント・ボール、アントン・ディフリング、ファーディ・メイン、デレン・ネスビット、ヴィクター・ボーモント、イングリッド・ピット他。撮影はアーサー・イベットソン。この映画のプロデューサーのエリオット・カストナーは、アリステア・マクリーン原作の「八点鐘が鳴るとき」(1971)「爆走!」(1972)「軍用列車」(1975)の映画化も手がけているが、リチャード・バートンから「自分を主演にしたアドベンチャー映画の企画を探してほしい」と依頼され、マクリーンにコンタクトしたところ、その時点で彼の小説の映画化権は全て売れてしまっていたため、バートンのためにオリジナルの脚本を書き下ろしてもらうことにしたという。後にマクリーンは自分でこの脚本をノベライズしており、日本で出版されている翻訳本もこのノベライズ版である。日本でもリリースされているこの映画のDVDには、この時代の作品としては珍しくメイキング映像が収録されており、非常に興味深い。

このスコアは、基本的に明るく豪快な作品の多いグッドウィンとしては全編がダークでシリアスなトーンで、彼の作品中でも最も暗く緊張感のあるスコアの1つだろう。「Main Title」でのヒロイックでストイックな主題がスコア全体のトーンを決定付けており、この主題が劇中のサスペンス描写で異なるアレンジメントにより何度も登場する。このCDのメインタイトルは再録音版とは後半部分が異なっている。「Preparation in Luggage Office」は、マーチのリズムによりサスペンスを盛り上げていくハイテンションな音楽。「The Booby Trap」「Encounter in the Castle」等は、ダイナミックで緊張感に満ちたアクション音楽。特に上手いのは、スミス少佐(バートン)とシェーファー中尉(イーストウッド)がケーブルカーの屋根に乗って要塞へと侵入するシーンの「Ascent on the Cable Car」と、逆にケーブルカーにより要塞を脱出するシーンの「Descent and Fight on the Cable Car」で、高所の恐怖を巧みに表現している。「Entr'Acte」は、2時間40分に及ぶ映画の中盤に入る休憩(インターミッション)時に流れる間奏曲で、メインタイトルのリプライズ。後半のクライマックスでの「Journey Through the Castle, Part 1、2」「Escape from the Cable Car」「Chase, Part 1 and 2」「The Chase to the Airfield」といったアクション音楽の連続は圧巻。このサントラ盤は音質も再録音盤より良いくらいで、わざわざ再録音する必要があったのか疑問を感じるが、当時は慣習的によく行われていた。2枚目のCDの後半には、「Waltz」「Polka」「Accordion Band」等この映画のソース音楽が10曲と、「Ascent on the Cable Car」「Descent and Fight on the Cable Car」のオリジナル版(パーカッション抜き)が収録されている。尚、グッドウィンはマクリーン原作の「ナバロンの嵐」(1978)の音楽も担当している。

「クロスボー作戦」は1965年製作のアメリカ映画で、監督は「暁の出撃」(1954)「生きていた男」(1958)「さらばベルリンの灯」(1966)「2300年未来への旅」(1976)「オルカ」(1977)等のマイケル・アンダーソン。出演はジョージ・ペパード、ソフィア・ローレン、トレヴァー・ハワード、ジョン・ミルズ、リチャード・ジョンソン、トム・コートネイ、ジェレミー・ケンプ、アンソニー・クエイル、リリー・パルマー、ポール・ヘンリード、リチャード・トッド、シルヴィア・シムズ、モーリス・デンハム、パトリック・ワイマーク、ファーディ・メイン、ヘルムート・ダンティーン、バーバラ・レティング、ジョン・フレイザー、ロバート・ブラウン他。ドゥイリオ・コレッティとヴィットリアーノ・ペトリッリの原案を基にリチャード・イムリー(=エメリック・プレスバーガー)、レイ・リグビーとデリー・クインが脚本を執筆。撮影はアーウィン・ヒリアー。製作はカルロ・ポンティ。

第二次大戦後期、ナチスによるイギリス本土への直接攻撃を目的とした秘密兵器“Vロケット”(Vは復讐=Vengeanceを指す)の開発を察知したイギリス首相チャーチルは、兵器の開発を阻止するために特殊部隊をドイツへと送り込む・・。この映画は、前半のV-1、V-2ロケット開発のエピソードで(敵である)ドイツ軍側をポジティブに描写している点や、Vロケットのテストパイロットを務めた実在のドイツ人女性ハンナ・ライシュ(レティング)をヒロイックに描いている点、ドイツ人役の俳優が全員劇中でドイツ語を話し英語字幕が出るという点(「荒鷲の要塞」等ではドイツ人は“ドイツなまり”の英語を話している)が、当時の第二次大戦もののアクション映画としては非常に異色で、特にナチスのメンバーであるライシュの肯定的な描写については当時の欧米の批評家から非難の声が上がったという。ソフィア・ローレンは当時この映画のプロデューサーのカルロ・ポンティの妻であり、極めて少ない出番にもかかわらず、主役のジョージ・ペパードよりも上にクレジットされていた。

ここでのグッドウィンのスコアも、連合軍の特殊部隊とドイツ軍のロケット開発部隊を公平に描写している。「Main Title」はヒロイックなマーチ調のメインタイトルで、グッドウィンの個性が強く現れている。「Flying Bomb」「Peenemunde」は、ドイツ軍によるVロケットのテスト飛行を描写したサスペンス調の音楽。これらの曲や、「Confession」「Secret Base」「The V-2」「Launching Section」「Countdown/Switch R-9」等のサスペンス音楽は「荒鷲の要塞」のタッチによく似ている。「Reitsch's Flight」は、ライシュによるテスト飛行の成功を描写したヒロイックな主題。「Promises」「Farewell」ではノーラ(ローレン)のキャラクターを描写したジェントルな主題が現れる。「End Title」では、チャーチルのスピーチに英国調の高貴な主題がかぶさり、メインの主題の短いリプライズにより締めくくる。グッドウィンらしいソリッドなサスペンス・アクション音楽。
(2004年1月)

Ron Goodwin

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