007/ノー・タイム・トゥ・ダイ NO TIME TO DIE
作曲:ハンス・ジマー
Composed by HANS ZIMMER
指揮:マット・ダンクリー
Conducted by MATT DUNKLEY
(米Decca / B0031950-02)2021
2021年製作のイギリス=アメリカ合作映画。監督は「闇の列車、光の旅」(2009)「ジェーン・エア」(2011)「ビースト・オブ・ノー・ネーション」(2015)等のキャリー・ジョージ・フクナガ(1977〜)。出演はダニエル・クレイグ、レア・セドゥ、ラミ・マレック、ラシャーナ・リンチ、レイフ・ファインズ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ロリー・キニア、ジェフリー・ライト、ビリー・マグヌッセン、クリストフ・ヴァルツ、デヴィッド・デンシック、アナ・デ・アルマス、ダリ・ベンサーラ、リサ=ドラ・ソネット他。ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイドとキャリー・ジョージ・フクナガの原案を基にニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガと「(TV)キリング・イヴ/Killing
Eve」(2018)等のフィービー・ウォーラー=ブリッジが脚本を執筆。撮影はリヌス・サンドグレン。ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じた第5作(本作で最後)で、「007」シリーズの第25作。
現役を退いたボンドはジャマイカで穏やかな生活を満喫していたが、CIA出身の旧友フェリックス・ライター(ライト)が助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者を救出するために活動を再開するボンドだったが……。当初は「トレインスポッティング」(1996)「28日後...」(2002)「スラムドッグ$ミリオネア」(2008)等のダニー・ボイルが監督することになっていたが、クリエイティヴ面での意見相違により撮影開始の3カ月前に降板し、急遽キャリー・ジョージ・フクナガが起用された。また、当初2017年公開が予定されていたが、一旦2019年に延期され、更に新型コロナウイルス感染症のために遅れて、結果的に2021年の公開となった。タイアップ(いわゆるプロダクト・プレースメント)として劇中に登場するノキア(スマホ)等のメーカーは、映画の公開が大幅に遅れたために劇中のモデルが古くなってしまい、再撮影を要求したという。製作費は約2億5000万ドル(ボンド映画シリーズの現時点での最高額)。全世界興行収入は約7億7413万ドル。
音楽は「テルマ&ルイーズ」(1991)「バックドラフト」(1991)「クリムゾン・タイド」(1995)「ザ・ロック」(1996)「グラディエーター」(2000)「ダ・ヴィンチ・コード」(2006)「ダンケルク」(2017)「ブレードランナー
2049」(2017)「X-MEN:ダーク・フェニックス」(2019)「ワンダーウーマン 1984」(2020)「DUNE/デューン 砂の惑星」(2020)等のハンス・ジマー(1957〜)。過去のダニエル・クレイグ版ボンド映画のスコアはデヴィッド・アーノルドとトーマス・ニューマンが作曲していたが、今回はベテランのジマーが初めてボンド映画のスコアを手がけている。
冒頭の「Gun Barrel」は、モンティ・ノーマン作曲によるジェームズ・ボンドのテーマを引用したオープニング曲。続く「Matera」は、ボンドとマドレーヌ(セドゥ)が海岸をドライヴするシーンに流れる曲だが、シリーズ第6作でピーター・ハントが監督しジョージ・レーゼンビーがボンドを演じた「女王陛下の007」(1969)の主題歌(作曲はジョン・バリー)のインストゥルメンタル版が引用される。「Message
from an Old Friend」は、ダークなサスペンス調からボンドのテーマを織り込んだダイナミックでリズミックなアクション音楽へ展開。「Square
Escape」も、ボンドのテーマを織り込んだダイナミックなアクション音楽。「Someone Was Here」は、静かにダークでドラマティックな曲。「Not
What I Expected」「What Have You Done?」「Shouldn't We Get to Know Each Other
First」「Poison Garden」は、抑制されたサスペンス音楽。「Cuba Chase」は、不気味なタッチからボンドのテーマを織り込んだリズミックなアクション音楽へ。「Back
to MI6」「Gearing Up」「Opening the Doors」も、ボンドのテーマの引用。「Good to
Have You Back」では、ジョン・バリー作曲の「女王陛下の007」のメインの主題が引用されるが、これはバリーが手がけた「007」シリーズのスコア中でも出色の主題。「Lovely
to See You Again」「Home」は、アルバムの最後に収録されている主題歌「No Time to Die」の主題を織り込んだ、静かなサスペンス音楽。「Norway
Chase」は、静かなイントロからダイナミックなサスペンスアクション音楽へ。「The Factory」は、重厚でドラマティックなタッチから後半リズミックなサスペンス音楽へ。「I'll
Be Right Back」は、リズミックなサスペンスアクション音楽。「Final Ascent」は、静かに主題から後半ドラマティックに盛り上がる曲。ラストの「No
Time to Die」は、ビリー・アイリッシュのヴォーカルによるメランコリックなタッチの主題歌(作曲はビリー・アイリッシュとフィニアス・オコンネル)。
打ち込みとオーケストラによるスコアにボンドの主題を織り込んだ形式はデヴィッド・アーノルドのスタイルを踏襲したもので、このスコアがベテランのジマー作曲である必然性はあまり感じさせない。スコアのプロデュースと追加音楽はスティーヴ・マッザーロ。オーケストラの指揮は「(未公開/TV)三銃士
妖婦ミレディの陰謀」(2005)等の作曲も手がけているマット・ダンクリー。コーラスはロンドン・ヴォイシーズ。ビッグバンドの指揮はジョン・アルトマン。シンセのプログラミングはハンス・ジマー。オーケストレーションはオスカー・セネンとその他大勢。
尚、このCDには収録されていないが、映画のエンドクレジットには上記「女王陛下の007」の主題歌でルイ・アームストロングが歌った「We
Have All the Time in the World」(作曲:ジョン・バリー、作詞:ハル・デヴィッド)が流れる。この旧作ではボンドがデイム・ダイアナ・リグ(1938〜2020)扮するトレイシーを真剣に愛し、結婚までする展開となっており、この点で「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でのボンドとマドレーヌの関係に通ずるものがある。いずれにせよジョン・バリーによる名曲であり、ファンにとっては嬉しいサプライズだった。
(2022年2月)
Hans Zimmer
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