引き裂かれたカーテン TORN CURTAIN

作曲・指揮:ジョン・アディスン
Composed and Conducted by JOHN ADDISON

未使用スコア 作曲・指揮:バーナード・ハーマン
The Unused Score Composed and Conducted by BERNARD HERRMANN

(米La-La Land Records / LLLCD1648)

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1966年製作のアメリカ映画。製作・監督は「レベッカ」(1940)「白い恐怖」(1945)「裏窓」(1954)「知りすぎていた男」(1956)「めまい」(1958)「北北西に進路を取れ」(1959)「サイコ」(1960)「鳥」(1963)等のアルフレッド・ヒッチコック(1899〜1980)。出演はポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュース、リラ・ケドロヴァ、ハンスイェルク・フェルミー、タマラ・トゥマノヴァ、ルドウィッグ・ドナス、ウォルフガング・キーリング、ギュンター・シュトラック、デヴィッド・オパトッシュ、ジゼラ・フィッシャー、モート・ミルズ、キャロリン・コンウェル、アーサー・グールド=ポーター、グロリア・ゴヴリン、ピーター・ローレ・Jr他。脚本はブライアン・ムーア。撮影はジョン・F・ウォーレン。

コペンハーゲンで開催される国際会議に出席するため、アメリカの物理学者マイケル・アームストロング(ニューマン)と、彼の助手で婚約者のセーラ・シャーマン(アンドリュース)は、客船でアメリカからデンマークへと向かっていた。目的地到着の直前、マイケルに「コペンハーゲンの本屋で本を受け取れ」との電報が届く。本屋で自著の本を受領したマイケルは、その中にメッセージを発見し、急遽ストックホルムへ行くとセーラに告げて出かけていく。不信感を抱いたセーラは、ひそかにマイケルを追い、彼が東ベルリン行のフライトに搭乗したことを知って、同じフライトに乗りこむ。空港に到着したマイケルは、諜報員ヘルマン・グロメク(キーリング)の案内で秘密諜報機関長のハインリッヒ・ゲルハルト(フェルミー)に紹介される。セーラは、マイケルが東ベルリン亡命を決意していたことを知るが、これはアメリカで開発された核兵器ガンマ5に係る極秘情報の共産圏への漏洩を意味していた……。ヒッチコック監督の50本記念作品だが、ヒッチは主演のニューマンとアンドリュースが気に入らず(彼の希望したキャストではなくスタジオ側の指定だった)、作品の出来にも満足していなかった。製作費は約600万ドル。

音楽は当初、「ハリーの災難」(1955)「知りすぎていた男」(1956)「めまい」(1958)「北北西に進路を取れ」(1959)「サイコ」(1960)等でヒッチコック監督と組み、監督と作曲家の最も成功したコラボレーションの事例と考えられていたバーナード・ハーマン(1911〜1975)が作曲して、レコーディングも行っていたが、ヒッチコックが彼のスコアをリジェクトしたため、「トム・ジョーンズの華麗な冒険」(1963)「探偵<スルース>」(1972)「カリブの嵐」(1976)「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」(1976)「遠すぎた橋」(1977)「(TV)ジェシカおばさんの事件簿」(1984〜1996)等のイギリスの作曲家ジョン・アディスン(1920〜1998)が起用されてスコアを作曲した。

ジョン・アディスンのスコアは、公開当時の1966年に米Deccaレーベルから全12曲/約29分収録のサントラLP(Decca DL 79155)が出ており、1990年に米Varese Sarabandeレーベルが同じ内容のCD(Varese Sarabande VSD 5296)をリリースしているが、2024年5月にLa-La LandレーベルがリリースしたこのCDには、追加音楽を含むアディスンのスコア全25曲/約61分を収録。
一方、バーナード・ハーマンの未使用スコアは、アメリカの作曲家エルマー・バーンステインが1974年から1979年にかけて私費を投じて録音しLPでリリースしたクラシック・フィルムスコアの新録音シリーズ「Elmer Bernstein's Film Music Collection」の1枚として、バーンステイン指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏により録音された全14曲/約41分半収録のLP(Elmer Bernstein Filmmusic Collection FMC-10)が1977年にリリースされており、このシリーズを米Film Score Monthlyレーベルが2006年に全12枚のボックスセットとしてCD化(Film Score Monthly FSM BOX 01)した際の1枚にも含まれていたが、このLa-La LandレーベルのCDには、1966年当時にハーマン自身が指揮して録音した全9曲/約15分半の音源が収録されている。3000枚限定プレス。

ジョン・アディスン作曲のスコアは、「Main Title from Torn Curtain」が不吉なイントロから躍動的で重厚な主題へと展開するメインタイトルで、サックスのソロが入るところがアディスンらしい。「Code One」「First Introduction to ‘Pi’」は、不吉なサスペンス音楽。「The Love Theme from Torn Curtain (Extended Version)」は、ヘンリー・マンシーニ風のジェントルでリリカルなラヴ・テーマで、スタジオ側が望んでいたのはまさにこういうタッチの曲であろう。「Book Store」「Sarah Alone」「Michael and Sarah – Alone on the Hill」は、ラヴ・テーマのバリエーション。「First Premonitions」「Behind the Curtain (Extended Version)」「More Premonitions」「East Berlin at Dawn」「Sarah and Superimposures」は、ラヴ・テーマを織り込んだ不吉なタッチのサスペンス音楽。「The Murder of Gromek (Extended Version)」は、ダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Phone Wire / Hole in the Ground / Caution」「Escape on the ‘Pi’ Bus (Part 1)」「Escape on the ‘Pi’ Bus (Part 3)」は、メインタイトルのフレーズを織り込んだダークなサスペンス音楽。「Escape on the ‘Pi’ Bus (Part 2)」は、メインの主題のバリエーション。「Finale from Torn Curtain」は、ラヴ・テーマの大らかなアレンジメントによるフィナーレ。「Variations on the Love Theme from Torn Curtain」は、ラヴ・テーマのバリエーション。
これ以降は追加音楽として別バージョンや代替テイク「Torn Curtain Love Theme Instrumental」「The Love Theme from Torn Curtain (Alternate Segment)」「First Premonitions (Alternate)」「Behind the Curtain (Alternate Segment)」「End Title from Torn Curtain (Alternate)」が収録されているが、最後の「The Love Theme from Torn Curtain (Green Years)」は、ジョニー・マン・シンガーズのヴォーカルによるラヴ・テーマのコーラス版(作詞はジェイ・リヴィングストンとレイ・エヴァンス)。

バーナード・ハーマン作曲のスコアは、「Torn Curtain Prelude」がハーマンの個性が強く出た重厚でダイナミックな前奏曲で、彼がヒッチコック監督の「知りすぎていた男」(1956)や「北北西に進路を取れ」(1959)に作曲したサスペンス・スコアの流れをくむタッチ。「The Ship」「The Radiogram」「The Bookstore」「The Travel Desk / The Blurring」は、抑制されたタッチのサスペンス音楽。「The Hotel」は、明るく大らかなファンファーレ風の曲。「The Book」は、メインの主題の静かなバリエーション。「The Killing」は、マイケルが農家でグロメクと格闘して殺害するシーンの重厚でダイナミックかつパーカッシヴなサスペンスアクション音楽。これはアディスンのスコアでの「The Murder of Gromek (Extended Version)」に相当する曲で、同じシーンにつけられた劇伴音楽として両者を比較すると面白い。「Torn Curtain Prelude (Alternate Take)」は、前奏曲の代替テイク。アルバムとしては、このハーマン指揮による録音のすべてを収録している点が貴重(一部は過去のコンピレーションCDに収録されていた)。

ヒッチコック監督作品「逃走迷路」(1942)に出演した俳優で、監督・プロデューサーでもあり、ヒッチコックとハーマンの2人と親交があったノーマン・ロイド(1914〜2021)は、1996年のインタビューで、長年強い信頼関係にあった2人がこの作品をきっかけに訣別した経緯を、以下のように語っている――
ヒッチコックは、本作を製作したユニヴァーサル・ピクチャーズの音楽部門から、バーナード・ハーマンを起用しないようにとの強い圧力をかけられていた。ハーマンはヒット・ソングを作曲することができないので、ユニヴァーサルはヘンリー・マンシーニに頼もうとしていたが、ヒッチコックはハーマンの起用を強行した。スタジオ側から強い圧力をかけられていたヒッチコックは、自分がどのようなスコアを作曲してほしいのか、ハーマンに詳細な指示を与えた。ハーマンはその指示を受領してからスコアを作曲したが、ヒッチコックは完成したスコアを聴いて、「これ以上聴きたくない。これは私が依頼したものと違う。私の要求から完全に逸脱している」と言って、ステージから出て行ってしまった。オーケストラは解散になり、翌日の録音はキャンセルになった。ハーマンはヒッチコックに会おうと試みたが、彼は会おうとしなかった。彼は、自分が細心の注意をはらって作成した指示を、ハーマンが意図的に無視したと感じ、それを個人的な侮辱ととらえた。しかも、彼はスタジオ側の反対を押し切ってハーマンを起用していたのだ。こうしたすべての状況により、ハーマンに裏切られたとヒッチコックが考えるに至った。

(2024年7月)

John Addison

Bernard Herrmann

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