映画のサウンドトラック盤(Original Soundtrack Recording)の収集は随分前から始めたので、LPとCDを合わせると既にかなりの枚数になっているが、現在でも収集の基準は飽くまで“作曲家”であり、実際に観ていない映画のサントラ盤もかなり所有している。
サントラ盤は、そもそも映画に付随したマーチャンダイジング(関連商品)の一部として、または、映画公開前・公開中のプロモーション用の“広告宣伝物”として発売される場合が多いので、サントラ盤を買う人も、その映画に興味がある人や、映画を観てその音楽が気に入った人、というのがメインの購買層だと思う。
私の場合は、そういう入り方ではなく、家にたまたまあった「映画音楽名曲集」のようなLPレコード(“西部劇”“戦争映画”“アクション映画”“恋愛映画”といったジャンル別に有名なテーマ曲を集めたコンピレーション)を聞いて映画音楽に親しむようになったのだが、その手のコンピレーションは殆どの場合サントラ音源ではなく、別のオーケストラによるカバー演奏で、私がはじめて聞いたLPもそうだった。最初は全く気にせず(というか気付かず)に聞いていたのだが、実際にTVで放映された映画を観ると音楽の演奏の迫力が全然違う。そこではじめて“オリジナル・サウンドトラック”なるものが存在することに気付くのである。
それからサントラ盤(当時はLP)の収集がはじまるのだが、過去の映画の場合日本盤がなく、輸入盤でしかリリースされていないものがあることに気付く。更に色々調べてみると、随分昔に廃盤になり、今やプレミアム価格のついた希少なサントラ盤が多数あることもわかってくる。そういうことを解説した本や、その手の希少なサントラ盤ばかりを扱う専門店なんかも登場し、いよいよ収集にのめりこんでいってしまう。
ここで、単に希少なサントラ盤を投機的な目的で収集する人(そういう人は同じアルバムを複数購入して、他のコレクターとトレードしたりする)や、自分が見たことのある映画のサントラ盤だけを集める人、ジャケットデザインに注目して集める人、という風にコレクターのタイプが分かれてくるのだが、私の場合は“気に入った作曲家のアルバムを集める”というパターンに落ち着いた。
要するに“映画”や、“希少なレコード”を集めるのではなく、飽くまで“音楽”を集めるというスタンスである(因みに、この“映画”を集める、という感覚は、今の映画ファンがビデオやDVDを買う感覚と同じで、「好きな映画を所有しておきたい」という気持ちの現れである。当時はビデオがなく、映画を所有するには高価な8ミリフィルムを買うか、せめてサントラ盤で音だけでも所有するしかなかった。かつて音楽だけでなく、セリフや効果音まで収録したサントラLPがよく出ていたのはこのためである)。
“音楽”に注目して収集することで、様々な作曲家の個性や作風、国民性、他の作曲家からの影響、得意なジャンル等が色々と明らかになってきて実に面白い。というわけで、上述したように、まだ観ていない映画のサントラ盤であっても、自分が気に入っている作曲家の新作であれば迷わず買ってしまうのである。
ここでは海外の代表的な映画音楽作曲家を地域別に紹介してみようと思う。
かつての“Studio Era”と呼ばれたメジャースタジオ全盛のハリウッド黄金時代に活躍した偉大な作曲家たちには、ヨーロッパ各国やロシアからの移民が多かった。ワーナーブラザーズで「ロビン・フッドの冒険」や「海賊ブラッド」「シーホーク」といったスケールの大きい活劇音楽を手がけたエリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold)や、「風と共に去りぬ」「カサブランカ」「キング・コング」「捜索者」といった名作に優れた劇音楽を提供した巨匠マックス・スタイナー(Max Steiner)は、共にオーストリアからハリウッドにやって来た。「真昼の決闘」「アラモ」「赤い河」「OK牧場の決闘」といった当時のアメリカ映画を代表する西部劇音楽の名曲を多数手がけたディミトリ・ティオムキン(Dimitri Tiomkin)は、意外にもロシアのウクライナ出身である。彼はこの他にも「ナバロンの要塞」や「素晴らしき哉!人生」「ジャイアンツ」「紅の翼」等の傑作を残している。「ベン・ハー」「エル・シド」「黒騎士」「クオ・ヴァディス」といった史劇映画や、「熱砂の秘密」「失われた週末」「深夜の告白」「シャーロック・ホームズの冒険」等ビリー・ワイルダー監督作品を手がけたミクロス・ローザ(Miklos Rozsa)はハンガリー出身の名作曲家で、協奏曲等の優れたクラシック音楽でも有名である。アルフレッド・ヒッチコック監督の「レベッカ」「裏窓」「断崖」、ビリー・ワイルダー監督の「翼よ!あれが巴里の灯だ」等を書いたフランツ・ワックスマン(Franz Waxman)はドイツ出身。「フランケンシュタインの花嫁」や「隊長ブリーバ」等素晴らしいスコアを多数作曲した。
生粋のアメリカ人の作曲家では、何と言っても20世紀フォックスの音楽監督を永年務めたアルフレッド・ニューマン(Alfred Newman)が有名で、個人的にも最も好きな作曲家の1人である。「西部開拓史」「ネバダ・スミス」といった西部劇や、「嵐が丘」「征服への道」「聖衣」「偉大な生涯の物語」といったスペクタクル映画に深遠かつダイナミックでパワフルなスコアを提供した。有名なフォックスのファンファーレも彼の作品である。 遺作となったサスペンス映画の「大空港」も名曲。「誰が為に鐘は鳴る」「静かなる男」「サムソンとデリラ」といった名作を多数手がけ、パラマウントの音楽監督を務めたヴィクター・ヤング(Victor Young)もアメリカ出身。「80日間世界一周」「大砂塵」「シェーン」といったポピュラーな名曲を残した。
この時代の最も重要なアメリカ人作曲家はバーナード・ハーマン(Bernard Herrmann)であろう。オーソン・ウェルズの「市民ケーン」の音楽で有名となり、「ジェーン・エア」「キリマンジャロの雪」といった文学作品や、「地球の静止する日」「地底探検」といったSF映画、レイ・ハリーハウゼンがSFXを担当した「シンドバッド7回目の航海」「アルゴ探検隊の大冒険」等のファンタジー映画の音楽を多数手がけた。ヒッチコック監督とコラボレーションは有名で、「ハリーの災難」「サイコ」「めまい」「北北西に進路を取れ」「知りすぎていた男」「マーニー」等の傑作を残した。遺作はマーティン・スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」。
その他にも地味ながら傑作を残した名手には、「我等の生涯の最良の年」「片目のジャック」「レッド・バロン」等のヒューゴ・フリードホファー(Hugo Friedhofer)、「戦艦バウンティ」「ロード・ジム」「大西部への道」等のブロニスロー・ケイパー(Bronislau Kaper)、「大いなる西部」「枢機卿」等のジェローム・モロス(Jerome Moross)、「特攻大作戦」「飛べ!フェニックス」等のフランク・デ・ヴォール(Frank DeVol)、「栄光への脱出」「愚か者の船」「戦争のはらわた」等のアーネスト・ゴールド(Ernest Gold)がいる。
惜しくも故人となったが、現代のハリウッド映画音楽のスタイルを確立した3人の名作曲家がいる。「欲望という名の電車」「スパルタカス」「荒馬と女」「クレオパトラ」等で独自の作風を追求したアレックス・ノース(Alex North)(「ゴースト」で使われた有名な「Unchained Melody」も彼の作曲)、「ティファニーで朝食を」「酒とバラの日々」「ハタリ!」「ピンク・パンサー」シリーズ、「シャレード」「ひまわり」等都会的で洗練されたスコアのパイオニアであるヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)、そして「わらの犬」「ワイルドバンチ」等のサム・ペキンパー監督作品や「メカニック」等のマイケル・ウィナー監督作品、「アウトロー」「ガントレット」等のクリント・イーストウッド監督・主演作品に重厚でパワフルなスコアを提供したジェリー・フィールディング(Jerry Fielding)である。
現在でも活躍しているアメリカ映画音楽界を代表する大ベテランがエルマー・バーンステイン(Elmer Bernstein)である。ジャズを取り入れた「黄金の腕」で有名になり、セシル・B・デミル監督に大抜擢されてスペクタクルの「十戒」に壮大な音楽を付けた。「大海賊」「荒野の七人」「大脱走」「アラバマ物語」「勇気ある追跡」等優れたスコアを多数残しているが、現在でも新作を精力的に書き続けているのはさすがである。
アレックス・ノースのラインを継承し、エモーショナルかつダイナミックなスコアで現代映画音楽の最高レベルに到達しているのがジェリー・ゴールドスミス(Jerry Goldsmith)である。「ブルー・マックス」「危険な道」「脱走特急」等の戦争映画、「風とライオン」「炎の砦マサダ」「QBセブン」等のスペクタクル、「チャイナタウン」「氷の微笑」等のミステリー、「墓石と決闘」「バッド・ガールズ」等の西部劇、「カプリコン1」「カサンドラ・クロス」「ランボー」「ダブル・ボーダー」等のサスペンス・アクション、「エイリアン」「スタートレック」「ポルターガイスト」「トータル・リコール」等のSF作品といったあらゆるジャンルの作品に緊張感溢れる優れたスコアを提供している。悪魔音楽を書いた「オーメン」でオスカーを受賞。特にフランクリン・J・シャフナー監督とのコラボレーションは有名で、「七月の女」「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」「パピヨン」「海流のなかの島々」「ブラジルから来た少年」「(未公開)ライオンハート」と7作品で組み、どれも素晴らしいスコアを残している。また最近ではデヴィッド・アンスポー監督と組んだ「勝利への旅立ち」「ルディ/涙のウィニング・ラン」のスコアが極めて感動的で、個人的には彼のベストの仕事だと思う。彼は既に2回の来日公演を果たしている。
ゴールドスミスと共に、現代ハリウッド映画音楽界の2大巨頭となっているのがジョン・ウィリアムス(John Williams)である。彼はヘンリー・マンシーニのラインを継承しており、初期の「おしゃれ泥棒」「ファミリー・プロット」等はマンシーニのタッチにそっくりであるが、その後「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」といったディザスター映画で知られるようになる。スティーヴン・スピルバーグ監督とのコンビは有名で、「続・激突!カージャック」で組んで以来「ジョーズ」「未知との遭遇」「E.T.」「インディ・ジョーンズ」シリーズ、「ジュラシック・パーク」「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」「A.I.」等、ほぼ全ての監督作品にスコアを提供している。ジョージ・ルーカスと組んだ「スター・ウォーズ」では、重厚なシンフォニック・スコアを堂々と鳴らし、その後のハリウッド映画音楽のスタイルに多大な影響を与えた。アーサー・フィードラーの後継者としてボストン・ポップスの常任指揮者を務めたことも有名で、来日公演も行っている。
トム・クルーズ主演の劇場映画としてリメイクされたTVの「スパイ大作戦」や「燃えよドラゴン」の音楽で有名なラロ・シフリン(Lalo Schifrin)はアルゼンチンのブエノスアイレス出身。ハードボイルド・タッチのシャープなジャズが抜群にカッコいい「ブリット」「ダーティハリー」や「戦略大作戦」「鷲は舞い降りた」等、強烈なサスペンスと軽妙なユーモアのセンスが共存した素晴らしいスコアを書いている。シフリンと同様、ジャズをベースとした映画音楽を得意とする作曲家では、「コンドル」「天国から来たチャンピオン」「黄昏」「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」等のデイヴ・グルーシン(Dave Grusin)、「夜の大捜査線」「マッケンナの黄金」「バンクジャック」「ゲッタウェイ」等のクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)が非常に有名である。
その他にも、地味な存在ながら効果的な劇音楽を提供している実力派のベテランに、「エデンの東」「ミクロの決死圏」「続・猿の惑星」「指輪物語」等のレナード・ローゼンマン(Leonard Rosenman)、「ベケット」「サウスダコタの戦い」「メテオ」「タイタンの戦い」等のローレンス・ローゼンタール(Laurence Rosenthal)、「ヤング・フランケンシュタイン」「メル・ブルックス/新サイコ」「エレファント・マン」等のジョン・モリス(John Morris)、「サブウェイ・パニック」「カンバセーション…盗聴…」等のデヴィッド・シャイア(David Shire)がいる。
これらのベテラン達の後継者として新作を次々と発表している新世代の作曲家には、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ、「ロジャー・ラビット」「フォレスト・ガンプ」「コンタクト」等ロバート・ゼメキス監督とのコンビ作品や、「プラスティック・ナイトメア/仮面の情事」「ノー・マーシー 非情の愛」「プレデター」「イレイザー」等シャープなセンスのアラン・シルヴェストリ(Alan Silvestri)、主題曲が大ヒットした「ロッキー」や「ライト・スタッフ」「イヤー・オブ・ザ・ガン」「ベスト・キッド」等明快なスコアを書くビル・コンティ(Bill Conti)、「ビッグ・ウエンズデー」「コナン・ザ・グレート」「若き勇者たち」「ロボコップ」「レッド・オクトーバーを追え!」「暴走特急」「スターシップ・トゥルーパース」等パワフルなスコアが得意なベーシル・ポールドゥーリス(Basil Poledouris)、「ヘルレイザー」「フライ2」「スピーシーズ」等ホラー系を中心に作曲しているクリストファー・ヤング(Christopher Young)、「ダイ・ハード」シリーズ、「リーサル・ウェポン」シリーズ、「ロビン・フッド」「三銃士」等アクション作品や、「未来世紀ブラジル」「陽のあたる教室」等のマイケル・ケイメン(Michael Kamen)、「銀河伝説クルール」「ロケッティア」「ブレイブハート」「タイタニック」等のジェームズ・ホーナー(James Horner)、「バックドラフト」「クリムゾン・タイド」「グラディエーター」「パール・ハーバー」等のハンス・ジマー(Hans Zimmer)、「ナチュラル」「マーヴェリック」「トイ・ストーリー」等のランディ・ニューマン(Randy Newman)、「(未公開)ザ・ファントム」「ギャラクシー・クエスト」等のデヴィッド・ニューマン(David Newman)がいる。
新世代の中でも特に実力が突出しているのが、「ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎」「シルバラード」「ミクロ・キッズ」「トゥームストーン」「ザ・ターゲット」等極めてエモーショナルなスコアを得意とするブルース・ブロートン(Bruce Broughton)、「(TV)エデンの東」「ミラクルマスター 7つの大冒険」「私が愛したグリンゴ」等、常に水準以上のクオリティを維持しているリー・ホールドリッジ(Lee Holdridge)、そして「チャンピオンズ」「フランス軍中尉の女」「ナポレオン」「レインボウ」等、クラシック音楽の手法を取り入れた格調高いスコアを提供するカール・デイヴィス(Carl Davis)の3人である。彼らは現在活躍中の中堅クラスとして最も重要な存在となっている。
既に中堅となりつつあるこれら新世代作曲家をさらに追随する若い世代として、「ビートルジュース」「シザーハンズ」「バットマン」「マーズ・アタック!」「PLANET OF THE APES/猿の惑星」等ティム・バートン監督とのコンビ作品や「ミッドナイト・ラン」「ディック・トレイシー」「ミッション・インポッシブル」等話題作の音楽を多数担当している売れっ子のダニー・エルフマン(Danny Elfman)や、「白銀に燃えて」「ターミナル・ベロシティ」「フリッパー」「アベンジャーズ」等のジョエル・マクニーリー(Joel McNeely)、「生きるために」「忘れられない人」「スタートレックVI/未知の世界」等のクリフ・アイデルマン(Cliff Eidelman)、「ビッグ」「ザ・フライ」「羊たちの沈黙」「セブン」等のハワード・ショア(Howard Shore/カナダ出身)、「逃亡者」「ワイアット・アープ」「ウォーターワールド」等のジェームス・ニュートン・ハワード(James Newton Howard)、「ドラゴン/ブルース・リー物語」「マスク」「デイライト」「ドラゴンハート」等のランディ・エデルマン(Randy Edelman)、「カットスロート・アイランド」「ライアー・ライアー」「レリック」等のジョン・デブニー(John Debney)、「エイリアン3」「バットマン・フォーエヴァー」等のエリオット・ゴールデンタール(Elliot Goldenthal)、「トレマーズ」「トイ・ソルジャー」等のロバート・フォーク(Robert Folk)、「ゆりかごを揺らす手」「セイント」等のグレーム・レヴェル(Graeme Revell/ニュージーランド出身)、「ワイルド・ガンズ」「ロルカ、暗殺の丘」等のマーク・マッケンジー(Mark McKenzie)、「ヘルレイザー3」「宋家の三姉妹」等のランディ・ミラー(Randy Miller)、「マトリックス」「ジュラシック・パーク3」等のドン・デイヴィス(Don Davis)といった多数の才能が活躍している。
フランスの映画音楽作曲家の第一人者は何といってもジョルジュ・ドルリュー(Georges Delerue)である。惜しくも故人となったが、その美しく情感豊かな“ドルリュー節”のファンは多い。フランソワ・トリュフォー監督とのコンビは有名で、「突然炎のごとく」「恋のエチュード」「アメリカの夜」「隣の女」「終電車」「日曜日が待ち遠しい」等、どのスコアも素晴らしい。「暗殺の森」「イルカの日」「アグネス」「シルクウッド」等優れた劇音楽を多数作曲しており、映画音楽史上に残る偉大な作曲家の1人である。ドルリューと並ぶ実力派がフィリップ・サルド(Philippe Sarde)である。「夕なぎ」「すぎ去りし日の…」「離愁」「友情」「フォートサガン」「子熊物語」等、繊細かつ複雑でダイナミックな音楽を書く優れた作曲家で、現在でも新作を意欲的に書き続けている。「冒険者たち」「サムライ」「ラ・スクムーン」「さらば友よ」「ジェフ」「ラムの大通り」「オー!」等独創的なスコアを多数残したフランソワ・ド・ルーベ(Francois de Roubaix)も素晴らしい。36歳の若さでこの世を去った天才作曲家である。フランス出身の世界的な大物作曲家として、「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」「インドへの道」といったデヴィッド・リーン監督作品で有名ながモーリス・ジャール(Maurice Jarre)を忘れてはならない。「史上最大の作戦」「パリは燃えているか」「砂漠のライオン」「王となろうとした男」「ナザレのイエス」等の大作にパーカッションを効果的に使用したスケールの大きい劇音楽を書いており、最近でも「刑事ジョン・ブック 目撃者」「ゴースト」等に美しいスコアを提供している。
フランスきってのメロディメーカーといえば、「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「華麗なる賭け」「三銃士」等のミシェル・ルグラン(Michel Legrand)と、「男と女」「白い恋人たち/グルノーブルの13日」「ある愛の詩」等のフランシス・レイ(Francis Lai)だろう。この2人は「愛と哀しみのボレロ」で共作している。
その他にも、古くは「美女と野獣」「恐怖の報酬」「赤い風車」等のジョルジュ・オーリック(Georges Auric)、「地下室のメロディー」「ファントマ/危機脱出」等のミシェル・マーニュ(Michel Magne)、「トリプルクロス」「哀愁のパリ」「ダイヤモンドの犬たち」等のジョルジュ・ガルヴァランツ(Georges Garvarentz/ギリシャ出身)、そして、「影の軍隊」「仁義」等のエリック・ドマルサン(Eric Demarsan)、「ボルサリーノ」「フリック・ストーリー」「カリフォルニア・スイート」等のクロード・ボラン(Claude Bolling)、「ココ・シャネル」等のジャン・ミュジー(Jean Musy)、「ディーバ」「マルセルの城」等のウラジミール・コスマ(Vladimir Cosma)、「小さな泥棒」「伴奏者」等のアラン・ジョミー(Alain Jomy)、「悲しみのヴァイオリン」「わが美しき愛と哀しみ」「恋の病い」等のロマーノ・ムスマッラ(Romano Musumarra)等が優れたスコアを多数残している。
現在最も精力的に映画音楽を手がけている作曲家には、「愛人」「カミーユ・クローデル」「溝の中の月」「イングリッシュ・ペイシェント」等のガブリエル・ヤレ(Gabriel Yared/レバノン出身)、「愛と宿命の泉」「シラノ・ド・ベルジュラック」「妻への恋文」「プロヴァンスの恋」等のジャン=クロード・プティ(Jean-Claude Petit)、「グラン・ブルー」「レオン」「フィフス・エレメント」「ジャンヌ・ダルク」等リュック・ベッソン監督とのコラボレーションで有名なエリック・セラ(Eric Serra)、「イヴォンヌの香り」「サン・ピエールの生命」等のパスカル・エステーヴ(Pascal Esteve)、「ハーフ・ア・チャンス」「愛のエチュード」等のアレクサンドル・デスプラ(Alexandre Desplat)、「キャラバン」「クリムゾン・リバー」等のブリューノ・クーレ(Bruno Coulais)がいる。
イギリスには個人的に好きな作曲家が多い。初期のイギリス映画には、レイフ・ヴォーン・ウィリアムス(Ralph Vaughan Williams)や、アーノルド・バックス(Arnold Bax)、エリック・コーツ(Eric Coates)、アーサー・ブリス(Arthur Bliss)、マルコム・アーノルド(Malcolm Arnold)、リチャード・アディンセル(Richard Addinsell)、ベンジャミン・フランケル(Benjamin Frankel)といったクラシックの作曲家がアルバイト的に音楽を付けていたが、中でも有名なのはローレンス・オリヴィエ監督の「ハムレット」「ヘンリィ五世」「リチャード三世」といったシェークスピア映画に格調高いスコアを提供したウィリアム・ウォルトン(William Walton)である。「選ばれし者の王者」や「空軍大戦略」に書いた荘厳で優雅なマーチは彼の真骨頂であり、私の最も好きな映画音楽の1つである。
ベテランの作曲家で世界的に有名なのは「007」シリーズや「野生のエルザ」「キング・ラット」「国際諜報局」「さらばベルリンの灯」等のジョン・バリー(John Barry)である。「白いドレスの女」「ダンス・ウィズ・ウルブス」「ある日どこかで」といった美しいスコアも多数書いている実力派。「633爆撃隊」「荒鷲の要塞」「空軍大戦略」「ナバロンの嵐」といった戦争映画や「素晴らしきヒコーキ野郎」等に豪快な音楽を書いたロン・グッドウィン(Ron Goodwin)も、いかにもイギリス的なセンスを感じさせる大好きな作曲家である。
その他にも、「探偵/スルース」「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」「カリブの嵐」「遠すぎた橋」等のジョン・アディスン(John Addison)や、「オリエント急行殺人事件」「レディ・カロライン」「ニコライとアレクサンドラ」等に高尚なスコアを付けたリチャード・ロドニー・ベネット(Richard Rodney Bennett)、「爆走!」「シンジケート」「ワイルド・ギース」「シーウルフ」等に痛快なアクション・スコアを書いたロイ・バッド(Roy Budd)、「アントニーとクレオパトラ」「グレイストーク」「(未公開)燃える男」「ファイナル・カウントダウン」等ダイナミックなスコアを得意とするジョン・スコット(John Scott)、「北海ハイジャック」「(未公開)パッセージ/死の脱走山脈」「スフィンクス」等抜群のセンスのマイケル・J・ルイス(Michael J. Lewis)、「(未公開)キャラバン」等のマイク・バット(Mike Batt)、「(未公開/TV)Brideshead Revisited」「ロビン・フッド」等のジェフリー・バーゴン(Geoffrey Burgon)、「(TV)シャーロック・ホームズの冒険」等のパトリック・ゴワーズ(Patrick Gowers)、「(TV)名探偵ポワロ」等のクリストファー・ガニング(Christopher Gunning)等、実に素晴らしい作曲家が多数活躍している。
日本でも有名だったTVシリーズの「サンダーバード」や「キャプテン・スカーレット」にエモーショナルなスコアを提供したバリー・グレイ(Barry Gray)や、ホラー映画専門のスタジオとして知られるハマー・フィルムの「吸血鬼ドラキュラ」「フランケンシュタインの逆襲」等にダイナミックなスコアを書いたジェームズ・バーナード(James Bernard)も忘れてはならない(いずれも故人)。
若手作曲家にも、「ダーク・クリスタル」「クリフハンガー」「13デイズ」等のトレヴァー・ジョーンズ(Trevor Jones/南アフリカ出身)、「狼の血族」「メンフィス・ベル」「永遠の愛に生きて」等のジョージ・フェントン(George Fenton)、「ヘンリー五世」「フランスの女」「インドシナ」「フランケンシュタイン」等のパトリック・ドイル(Patrick Doyle)、「スターゲイト」「インデペンデンス・デイ」「ゴジラ」等のデヴィッド・アーノルド(David Arnold)、「サイダーハウス・ルール」「バガー・ヴァンスの伝説」「ショコラ」等のレイチェル・ポートマン(Rachel Portman)といった第一級の才能が活躍している。
現存するイタリア映画音楽作曲家の超大物はエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)である。「ミッション」「ニュー・シネマ・パラダイス」「アンタッチャブル」等の話題作で一般にも知られるようになったが、元々はセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」「夕陽のギャングたち」「ウエスタン」といったマカロニ・ウエスタンの音楽で有名で、その外にも数え切れない程のスコアを書いている驚くべき多作家である。「死刑台のメロディ」「テオレマ」「殺しが静かにやって来る」「シシリアン」「1900年」「フランティック」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「海の上のピアニスト」等、独特の作風で現在でも新作を発表し続けている。
イタリア映画音楽界で最も有名なのはフェリーニ監督の「8 1/2」「アマルコルド」や「太陽がいっぱい」「ロミオとジュリエット」等のニーノ・ロータ(Nino Rota)であろう。「ゴッドファーザー」も素晴らしいが「ゴッドファーザー PART2」の音楽も極めて感動的。「ワーテルロー」「ナイル殺人事件」等のスコアも格調高い。日本ではあまり知られていないがロータと並んで重要な作曲家がマリオ・ナシンベーネ(Mario Nascimbene)である。「アレキサンダー大王」「バイキング」「武器よさらば」等にスケールの大きいシンフォニック・スコアを書いた。
その他にも、「裸のマヤ」「皇帝のビーナス」等のベテラン、アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ(Angelo Francesco Lavagnino)や、「続・荒野の用心棒」で有名となり「イル・ポスティーノ」でオスカーを受賞したルイス・バカロフ(Luis Bacalov)、主題曲『モア』が大ヒットした「世界残酷物語」や「ブラザー・サン・シスター・ムーン」「警視の告白」等、美しいスコアを得意とするリズ・オルトラーニ(Riz Ortolani)、「予告された殺人の記録」等のピエロ・ピッチオーニ(Piero Piccioni)、「黄金の七人」等のアルマンド・トロヴァヨーリ(Armando Trovaioli)、「南から来た用心棒」等のフランチェスコ・デ・マージ(Francesco De Masi)、「荒野の10万ドル」等のブルーノ・ニコライ(Bruno Nicolai)、「グッドモーニング・バビロン」「ライフ・イズ・ビューティフル」等のニコラ・ピオヴァーニ(Nicola Piovani)、「ミッドナイトクロス」「殺しのドレス」等のピノ・ドナジオ(Pino Donaggio)といった作曲家が活躍している。
上記以外の国では、コスタ=ガブラス監督の「Z」「戒厳令」やシドニー・ルメット監督の「セルピコ」に忘れ難い名曲を書いたギリシャの国民的作曲家のミキス・テオドラキス(Mikis Theodorakis)や、ヴォルフガンク・ペーターゼン監督の「Uボート」「ネバー・エンディング・ストーリー」に情感豊かなスコアを書いたドイツのクラウス・ドルディンガー(Klaus Doldinger)、フランシス・コッポラ監督の「ドラキュラ」に重厚なスコアを書いたポーランドのヴォイチェフ・キラール(Wojciech Kilar)等が有名である。
また、スペインのアントン・ガルシア・アブリル(Anton Garcia Abril)やホセ・ニエト(Jose Nieto)、ベルギーのフレデリック・ドゥヴレーズ(Frederic Devreese)やダーク・ブロッセ(Dirk Brosse)、オーストラリアのブライアン・メイ(Brian May)やブルース・ローランド(Bruce Rowland)といった作曲家も優れたスコアを提供している。
ここでは紹介できなかったが、その他にも優れた作曲家が多数活躍していることは言うまでもない。
(Updated:2001年11月)
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